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北極星の竜召喚士  作者: 猫の人
殲滅戦争
192/320

幕間:三者三様 3/3

「結局イベントらしいイベントは無かったわ」

「そーねー」

「世の中の恋人たちって、いったい何をしているのかしら?」

「さーねー。アタシだってずっと独り身だしー」

「ねぇ、真面目に聞いてる?」

「無ぅー理ぃー。イル、いい加減、ウザい」


 『北極星』のクランメンバーが寝泊まりする宿舎。

 そこは基本的に相部屋、二人で一部屋使うようになっている。


 部屋は当たり前だが男女別で使う。

 結婚していたり夫婦だったりする冒険者も存在するが、宿舎を利用するときにそれらの事情は考慮されない。夫婦用の宿舎でも作った場合、そこは単なる盛り場となるのが目に見えているためだ。

 福利厚生の一環でそういった屋場所を用意しても良いのだろうが、12歳の子供にそんな心配をされる方が大人にとって嫌なのである。さすがにそのような陳情はあまり出なかった。


 余談ではあるが、都市内に住む若い夫婦はわりとこの手(盛り場)の悩みを抱えている。彼らは大体が親などと同居しているので。

 一般的な感性を持つ者なら行為の音や嬌声などを人に聞かれたくないと思うのだ。翌日、夜の営みに評価点を付けられることが多いので。



 クランの宿舎でイリスイリアス、友人からは同クランのイーリスと区別するためにイルと呼ばれる少女はクランリーダー、ギルドマスターなどといくつもの肩書を持つ婚約者(レッド)の件で仲間に相談をしていた。


 その、距離の詰め方について。


 イルはそこそこ良い所の娘であり、男女交際については良家の価値観に準ずる。

 よって、二人きりで食事やお茶をしてゆっくりと互いを理解し合うのが普通だと思っていた。


 しかしイルの方が上という、普通ではない年齢差がある。

 通常は女性側が若いのでゆっくりする時間があるのだが、2人の場合はレッドの方が年下のため、あまり時間が無い。


 この世界には回復魔法や安価ではないが払えない額ではない『治癒の薬』があるとはいえ、嫁が結婚後に求められる役割、出産を考えると若いうちに出産するのが普通という考えが根強いのだ。

 魔法や薬が使えない地域などは普通にあるし、医療技術も未熟。必然的に出産は若さに頼るのが一般的なのだ。

 娯楽の面でも若い女の方がいいという風潮がある事も否定しきれない事実である。



 レッドが似たような立場の生まれであればイルも急がない。結婚後、きっと上手くやるだろう。

 だが、レッドは異世界出身者で常識が大きく異なり、政略結婚に対しどういった考えを持っているのかがイルには今一つ分からない。

 同じ国の他の都市の誰かと結婚する事すら国際結婚なみに常識が違う世界なのだ。異世界ともなればイルが焦り、迷うのも仕方がないと言えた。


 そして、冒頭のようなやり取りが繰り返されるのだ。

 同室の少女はすでに聞き流す事に慣れてしまうほどに。



「うう、私は上手くやっていけるのかしら?」

「なんとかなるでしょー」


 彼女らにとってあの戦争は近くで行われ、自分たちの生活に大きく影響しているが、それでも他人事である。直接戦わなかったのも大きい。


 誰がどこでどれだけ死のうと。

 それでも世界は回っている。

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