幕間:三者三様 2/3
王都には王城がある。当たり前である。
だが、王が王城にいるとは限らない。城はあくまで防衛施設であり、王が住む場所として王宮が別に存在する。
王城と合わせると王都の約半分を占めるその施設は、人が住むための場所に加え、部下や客を持て成す場所もある。例えば、戦場で活躍した者への論功行賞に使ったりする大広間などが。
「此度の戦功を讃え、汝を男爵に任ずる。以後も変わらぬ忠義を捧げよ」
「はっ! この命と剣は全て陛下の御為に」
部屋の奥にある椅子にはこの国の国王陛下が座っている。
国王は50前後の小柄な男であり、その姿に威厳らしきものは感じられない。レベルも低く武芸を嗜むようでもないため、この場にいる誰よりも弱く、儚げに見える。
その近くにいるのは背筋を伸ばした同じぐらいの歳の男。彼がこの国の宰相であり、この場を仕切る者であった。
宰相は手にした紙に書かれた名を順次読み上げ、その功績をたたえ、褒賞を告げる。
彼の告げる褒賞によっては小姓が将兵に近寄り、勲章などを渡している。
中には数人をまとめて、部隊単位で褒美を授ける事もあった。そのため、小姓達は人目につかない場所をかなり忙しく走り回っている。
なお、この場で最も多かった褒賞は爵位であった。
今回はサミスタ伯爵をはじめ、多くの貴族がその地位を奪われた。領地も領民も失ったサミスタ伯爵は当然として、残る領主は領地が無事ではあっても返り咲く事が許されず、爵位をはく奪されている。
これは国内のゴタゴタが原因の戦争だったため、渡せる金が国に入っていないのが理由である。
戦争に参加した者に正しく報いるためには、震源地である大地の都の周辺貴族には泥をかぶってもらう必要があったのだ。彼らから没収された土地と私財が戦費と褒賞に費やされたのである。
もっとも、それでも収益で言えば大きな赤字であり、王国の国庫は大きく目減りしているのであったが。
論功行賞が全て終わり、大広間から陛下が近衛と共に出ていく。
陛下が出ていけば次は参列者であり、最後に宰相ら運営側が席を外すことになる。
三々五々と人が去っていく大広間に、宰相は最後まで残っていた。
宰相はその場に持って来させた飲み物で喉を潤わせると一つの区切りがついたことに安堵し、始まった“次”に震える身を引き締めた。
先ほどまでの、喋りつづけて傷む喉は飲み物で癒された。
しかし、ここまで国が大きく傾いてしまえば何をすれば癒されるのだろうか?
褒賞を手にした者達は笑顔でこの場を去っていった。
だが、残った者に笑顔だったものは居ない。いや、表面は笑顔で取り繕っていたのだが、心ではこの苦境に歯噛みしている者ばかりだ。
大地の都は国境に面していなかったからまだ良かったが、火の都辺りは別の国、砂漠の蛮族と隣接している。あそこで同じことが起きてしまった場合、最悪は戦争で王都に刃が届くだろう。その刃で死ぬ運命には無くとも、流れる血は決して少なくは無いはずだ。
「異世界人どもめ……っ!!」
宰相も異世界人が齎したものの多くに一度は歓喜した人間である。これぞ神が我らに授けた祝福だと。
しかし、この結果を見てしまうと忌々しさの方が先に来る。神の意志がどこにあるか分からない。
「神は我らを見捨て給うたか!!」
王国で一番の都市。その中で最も豪華絢爛な場所で、一つの呪詛が漏れ出た。
宰相にはどこかで誰かが嘲笑う、そんな声が聞こえた気がした。