ポーション量産
正直、バイオテロは予想外である。
ケミカル系ならダンジョン攻略でも使えそうだけど、バイオ系だと効果を発揮するまで時間がかかりすぎる。
なんでダンジョンで使えない、しかも王国相手にも使え無さそうなものを研究していたかね?
狂人の考えは、今ひとつ分からない。
もっとも、そんなものは分からなくてもいいんだけどな。その被害さえ防げれば。
余所の大量死でお通夜状態の王都だが、それでも世界は回っていく。
仕事が終わった俺たちは撤収準備を終えてすぐにグランフィストに戻ったので、その後の話は聞いてないし、聞く事も無いだろう。完全に他人事である。
酷いと思うこと無かれ。
基本的に知り合いの生き死にが関わっていない戦争は対岸の火事であり、TVの向こう側と同じなのだ。
強いて言うならエンデュミオンが知り合いに含まれるけど、死なない保証だけはされているので、あまり気にならない。
「マスター、私のノルマは終わりましたが?」
「こっちはまだ、終わってないよ。できれば何か温かい飲み物を頼むよ」
「はい。それは良いのですが、なぜ『治癒の薬』まで量産するのですか?」
「保険というか、相手の考えを読もうとするとねぇ。引っかけの可能性もあるし?」
正直、病気用ポーションの量産そのものは専門家の桜花に任せておけばいいんだけど、それとは別に俺は俺で『治癒の薬』を作り溜めしておくことにしたのだ。
ストックを通常の3倍は作っておこうと思う。
病気用ポーションの素材は、治癒の薬とほぼ同じである。使う薬草が一種類だけ違う、その程度の差しかない。
つまり、病気用のポーションを量産すると治癒の薬の在庫が無くなりかねない。
材料は外で集めたので、実質タダだ。
もしかしたらブラフだったり何も考えていないのかもしれない。
だが、念には念を入れるくらいでちょうどいいと思う。どうせ使用期限も無いからさ。卸売用と、少し安くして売りに出せばすぐに在庫も捌けるだろうから大きな損は無い。
単純に、金と経験値を稼ぐ機会を失ったという損があるだけである。
各種ポーションをギルド全体で量産していく方針は、各クランからも好意的に受け止められている。
戦争では支給品のポーションもあったけど、自分たちの持ち出しも多かったのだ。ちなみに、その持ち出しの分は完全に自腹であった。前線で戦っていたクランの消耗は思ったよりも大きい。
そんなポーション不足に陥りかけていたところに先だって増産の話を聞かされれば、自分たちの補給も安定するとほっとしているところが多い。
基本的に自給自足のクランが多いのだが、一から百まで全部自分たちで揃えられるわけではないし、消耗が激しかったのはポーションだけではないのだ。装備のメンテナンスにも力を割かねばならない。ギルド単位での分業という俺たちの提案は渡りに船といえただろう。
なお、この話には領主側の許可と、行動範囲の指定を受けている。
薬草は生き物だ。下手な採取をすれば生息地が禿げてしまうし、他の採取者と喧嘩になってしまう。生態系を崩さないためにも上との密な連絡は大事なのだ。
そんなわけで、冒険者ギルド『北極星』は官民一体でポーション量産に乗り出したのであった。




