自爆テロ
非人道的な兵器と言われるものがある。
例えば地雷やクラスター爆弾。これらは何時・どのように人の命を奪うか分からないという理由で、国際条約で禁止されている。
他にも核兵器や細菌兵器、化学兵器などが大量破壊兵器としてこれに含まれる。周囲への影響、殺傷能力から拡散防止条約が作られており、国際社会が北朝鮮への圧力をかける一因となっている。
どうでもいい補足をすると、アンチマテリアルライフルやホローポイント弾、劣化ウラン弾も禁止される候補と挙がっているのに、なぜかラノベなどで名前をよく見かける気がする。
殺傷兵器としては最低だが、その能力が高く評価されているっていう事だろうけどね。これらが禁止されたら小説ではどういった扱いになるんだろうか?
非人道的な兵器らの話は地球の出来事であり、この世界とは一切関係が無い。
この世界で作れそうなのは地雷ぐらいが精々であり、ミサイル生産技術のまだ無い王国では細菌兵器や化学兵器などは自爆戦術のような使い方しかできないだろう。
言葉を反すと。
自爆戦術なら可能という事も出来る。
大地の都が凶悪な病原菌を使った細菌兵器にやられ、伝染病によって死の都と化したと聞いたのは、戦後から30日経ってからの話だった。
独立勢力の生き残りがやらかしたというのは、生き返った複数の貴族の証言があるので間違いない。約20万の人が殺される事となったのだ。
まったく、最期まで迷惑な連中である。
「集団自殺とか、マジで笑えない。病気対策のマジックアイテムもあるけど、数が足りる訳が無い。本当に、何がやりたかったんだ?」
「それは我々も図りかねます。それでですね――」
「病気用ポーションの作成依頼でしょ? あと、輸送にも手を貸した方がいいのか?」
「ポーションだけで構いません。専用の依頼を出しておきますので、手続きをお願いします」
戦後処理は最悪の結末を迎えた。
一部の、貴族などの要職にある者は助かったようだ。だが、一般の兵士たちは、街の住人達は全滅らしい。
今は大地の都近辺は周辺への拡散を警戒して厳戒態勢が敷かれ、街道で人の出入りを制限している。
不幸中の幸いというべき点もある。
ばらまかれた病原菌は罹患率と死亡率が異常に高い事に加え、潜伏期間が推定5日と非常に短い。そして発病から死亡までは3日前後。初期症状は倦怠感だが翌日には全身の異常発熱となり、その次の日に患者は死ぬ。だというのに治療さえ間に合えば後遺症が無い。
早く発病して早く死ぬため、罹患者が逃げれないのだ。拡散防止の観点で言えば助かる話である。感染者に「死ね」と言っているに等しい最悪な話であるが、人間にはできる事と出来ない事があるだけだ。
この世界には病気用の万能ポーションが存在するので、治療そのものは難しくない。貴族連中はそれで助かったのだ。
そして治療すれば後遺症が出ない事、再発しない事、治療後の二次感染源になる事がなさそうという事から、被害は一定範囲で食い止められそうというのも国としては助かるだろう。
ただ、ポーションによる治療では免疫ができないため、同じ人間が複数回罹るというのが問題だろうか。
ジャニスら文官から錬金術師を抱え込んでいる各種ギルド、たとえば冒険者ギルドには病気用ポーションの大量発注がかかり、材料の調達を始め、大きな負荷がかかる事になった。
もちろん病気になりたくないし死にたくもない俺たちが協力するのは当然の話であり、報酬が確約されているので安心して仕事として引き受ける。
多少、報酬が安めなのは、目をつぶっておく。
さすがに、こんな時に儲けようとは思わないのだ。
病気用ポーションだが、さすがにこの状況でギルド内の備蓄に手を出す事も出来ないし、常備しておく数を増やした方がいいだろうか。
あとはそれ用に畑の比率を変えた方がいいだろうし、責任者に話を通しておかないとな。
なんか、俺の考えている平穏な生活から、どんどん遠ざかっていくよな。
日本にいた時もインフルエンザで大騒ぎする連中は多かったし、こっちではどんな影響が出るんだろ?