楽勝ムード⑥
身分制度って、対岸の火事ならなかなか面白いかもしれない。
衛兵にドナドナされる子爵様を見て、そう思った。
犯罪者の取り締まりをするのが衛兵のお仕事で、ある程度目撃証言のある見逃せない犯罪、それも貴族が相手だと、その対応は2パターンに分けられる。
見逃すか、積極的に取り締まるかである。
前者は簡単。こっちの方が多いと思っていたけど、身分が一つ上の場合は罪一等が減じられるシステムで、大概の軽犯罪は見逃されるのが普通。
実際には見逃しているのではなく、法にも触れないような、無罪という訳だ。
ただ、それでも罪二等ぐらいまでは見逃されるんだ。軽微な犯罪を取り締まると、恨みを買うだけだからね。
後者、積極的に取り締まるのは「貴族位が剥奪できそうな犯罪」だった場合。
軍の命令系統を無視するというのはこれに当たる。罰則規定に命令書を発行した貴族の位が上乗せされるので、平民ならほぼ間違いなく死罪っていうレベルなんだよ。
そしてあの子爵が死んでしまえば貴族位が一つ空く訳で、それを取り締まった衛兵は英雄扱いされる。ちょっとは恨みも買うけど、それ以上に感謝されるらしい。特に、空いたポストに潜り込んだ貴族から。
今の俺はグランフィスト所属という扱いになり、命令書は公爵様から出ている。相手は子爵で、差は7つ。つまり罪七等が軍法無視に上乗せされるので、最低でも本人が死罪になり、御家は没落する様だ。
俺も迂闊な事は出来ないね。
追加で聞いた話だが、零落しているお家の場合、ああいった馬鹿貴族がちょくちょく出てくるらしい。
まともな教育を受けてもいないので法律関係に疎く、貴族として威張り散らして自爆するのだ。貴族がみんなちゃんとした教育を受けられるかは家の経済状態によるし、領主貴族はたまにああいうカエルさんを王都に送り出してしまうのだ。
自分の領地では王様だからね、領主貴族。
性格が歪むのもしょうがないか。
それにしても、と思う。
王都は大地の都の攻略が順調と言う事もあって、とても平和だ。
開戦から1月以内に大地の都付近まで軍を進めることに成功し、もう10日もあれば都を取り戻すこともできるだろう。
連戦連勝ですでに相手の被害は1万に届くと喧伝されているし、まず間違いなく勝てるだろう。
相川らが協力的なうちは。
あいつらが協力的である事は前提だけど、そのままでも問題が無いわけじゃない。
大きいのは奪われたマジックアイテムが取り戻せるのかと、死傷者数。都市を奪い返したところで人がいなくなれば意味は無いし、そもそも開戦した理由は国宝級のマジックアイテムを奪われたからだ。被害を出さず、取り戻すべき物を取り戻さないとまだ戦争は続く訳だ。
むこうの日本人連中が前線に出てきていないように思えるのも怖いと思う理由だな。
沈黙を続ける他2都市も気になるし、本当に王都が平和なのかと疑問に思う。
このまま終わってくれればいいんだけどな。