楽勝ムード⑤
大地の都は公爵領である。
だから領主であるサミスタ伯爵は、もともとは公爵という事になる。
現在は領地を奪われ降爵しているが、国に5人しかいない大物、重鎮なのだ。
ちなみに、公爵は4大都市の領主と王都の守護役である。
付け加えると、貴族というのは爵位持ちではないようだ。
爵位は「土地の管理者」という意味であり、正しくは役職が貴族の位になる。そして公爵は第4位の扱いになる。王様一番、王太子と王妃が二番で元帥と宰相が三番、その次に公爵が来て以下略。
細かいことを言いだすともっといろいろとあるし、複数の役職を兼任すると扱いは更に面倒な計算をしなければいけなくなる。なので、普段は「その場で名乗った役職をベースに考える」のが通例になっている。
もう一つ付け加えると、このルールは全国共通ではなく、この王国限定のローカルルールだ。他の国で同じノリを発揮すると恥をかくので注意が必要。
今回仲良くなった(?)エンデュミオン氏は、一応は貴族扱いである。
彼が就く騎士の階級は一三位。ぶっちぎりの最下位であり、なんちゃって貴族とも言われる元平民だった。
部下からの受けはいいし戦闘能力の高さから地位に見合わぬ扱いであったが、貴族関係のトラブルには対応でき無さそうだった。平時では使えないおっさんである。
なんでこんな事を考えているのかというと、目の前のおっさんが鬱陶しいからである。
「良いから我が輩に従えと言っておろうがぁっ!!」
「無理」
「貴様! さっきからなんだその態度はぁ!! 貴族に対する態度も知らんのか!!」
「当然」
鬱陶しい相手だけにこちらの口数も当然のように減る。
俺は別に目上の者に対し頭を下げる事を苦にするタイプではない。
だが、目の前の相手は俺にとって目上でも無ければ尊敬できる相手でもない。
ただただ邪魔なおっさんというだけである。
俺の仕事の拘束時間は短い。
王都に戻ってくると、その余暇で買い物をしている最中に、うるさい貴族のおっさんがやってきたのだ。
このおっさん、何気に子爵位をもった、十位の貴族位を持つそこそこ偉いおっさんであった。
だが、その地位の意味を全く理解しておらず、ついでに軍関係の規律についてもまるで知らないお馬鹿さんであった。
基本、兵士の様なガチ軍属であろうと傭兵枠であろうと、上官の命令は絶対である。逆らえば軍法会議になり、非常に面倒な事になる。
俺のお仕事は傭兵枠で輸送部隊の一部隊長扱いであり、輸送関係の話であればある程度の自己裁量があるが、それ以外は全く融通が利かない扱いだ。こんな事まで決まっているのかと思う一例に「定められた部隊の者以外との接触・会話を禁ずる」なんてスパイ対策の項目があるぐらいだ。
本当に軍とは面倒なのである。
なのに、そんな俺に「軍の仕事の期間が残っていようがそれを無視して自分の領地で働け」というご命令を出しているのだ。目の前の馬鹿は。
一応は貴族なので何も無ければ無罪放免になる可能性が否定できない。俺はこちらの法律や裁判に詳しくないので、ちょっとは慎重に考えて時間稼ぎをしている。
「衛兵さん、こっちです」
「む。ここからなら、確かに会話が聞こえるな」
目の前の馬鹿の漏らす妄言を聞き流していると、桜花が衛兵を呼んできてくれた。
これで馬鹿の相手も終わりかと思うと、俺はほっと息を吐くのであった。