異世界の戦争⑥
「教会の『死者蘇生』は1月以上の時間経過で出来なくなるはず。
それに、彼女らは一度、別の個体として使いまわされています。ジャニスさん、変なことを言わないで欲しい」
ゲームの仕様で決められたルールを思い出しながら、俺はなんとか言葉を紡ぐ。
魂の在り処がどこにあるかも分からないし、そもそも、こんな状態で復活した彼女らが本物である可能性を否定したくなるのは仕方が無いじゃないか。ただ別の誰かになって生まれ変わるだけじゃないか?
俺の理性が警鐘を鳴らす。
しかし、一方でどうしても期待してしまう自分がいるのが分かる。
あの時の一件、キャラウェイら3人の死は、俺に少なくない影響を与えている。ダンジョンで同種族を何度も破壊している身ではあるが、あれは自分のトラウマだという自覚がある。
あの時はまだ、何の力も無かった。
蘇生のためには予約が必要で、殺されて予約をしていては1月などあっという間に立ってしまう。
蘇生のためにはお金が必要で、1人3万なんてお金はなにをどうやっても払えなかった。
諦めるしかなかったのだ。
ゲームの時ならゲームのデータだからとまだ諦めもつくし、予約は必要なく借金など色々と救済措置があった。
なのに現実は厳しく、だからこそ慎重論を唱えてここまで来た。
それに、今更という気がしないでもない。
死者の蘇生が叶うなら、なぜ今なんだと叫びたい気持ちがある。もっと早く教えてくれてもいいじゃないかと声を大にして言いたい。
そんな俺の苦悩を横に、ジャニスは笑顔で俺に答えを提示する。
「ここからは秘密厳守でお願いします」と言って、俺が頷くのを見てから続きを口にした。
「このグランフィストは魔法生物関連では王国内どころか大陸でも随一の技術を持っています。それを用いれば魔法生物の蘇生なら、何とかなるんですよ。それをできる彼らにしては復旧という言い方が正しいのですが。
元々は魔法生物の記憶を知る為の物なんですけどね。他の都市に魔法生物を提供し、それを使い終わったあとに回収し、復旧して記憶を読み取る。そういう使い方をしていました。その為にも再利用や1月の時間制限を外す必要があったんです」
ジャニスの言い分はこうだ。
他の都市にメイドサーヴァントを送り込み、壊れるまで使わせる。
壊れたら素材回収を名目にコアを回収する。そして回収したコアからまた新しいメイドサーヴァントを作り、そこから情報を得るという方法があるのだが。
もちろんその対策のためにわざわざ1月以上待って死者蘇生をさせないようにもするし、中にはコアを一回再利用し、重要でない部署で仕事をさせてからもう一度使い潰し、それからコアを回収させることもあったようだ。
そんな当たり前の対策に対する対抗手段なので、俺が懸念する問題も解決できるとジャニスは言い切る。
これは機密情報に相当するので、俺の為に使うのはかなりきわどい話だが、何とか話を通すとジャニスは言う。
ここまでの話が本当であれば、とても魅力的な報酬である。
だから、俺はこう言ってしまった。
「報酬は前払いで。3人全員じゃなくてもいいから、誰か1人でいいから生き返らせてくれれば、引き受けるよ」
俺にはジャニスの笑顔が、悪魔のそれに見えた。