異世界の戦争④
「王都から召喚状が届きました。
あと、戦争参加の命令もですね。役目は資材の運搬だけですね。前線に立たせないことを保証し、戦闘になりそうなら即時撤退を義務付ける内容となっています」
「長らくお世話になりました」
マジックアイテム強奪の報から数日。
また、俺のところに召喚状が届いた。ついでに戦争に参加しろと言う命令付きで。
ジャニスさんに呼び出された俺は、領主の館の一画でそれを教えられた。
当たり前だが、俺は戦争に参加したくない。後方支援などと言っても補給の大切さを知る日本人ゲーマーならまず間違いなく襲うであろう、補給物資運搬担当と言う超危険なポジションだ。俺なら潜入特化のメンバーを選抜して絶対に殺しに行くぞ。
だから、それをやるくらいなら逃げる。当然の選択だ。
「最悪の事態になったら蘇生も必ずします! お願いしますよ!」
「いい大人が子供にしがみつかないでください!!」
席を立とうとした俺に対し、ジャニスさん――もうジャニスでいいか、心の中ぐらいは――は両手で俺にしがみつく。絶対に逃がさないという構えであるが、本気でこんな事をするとは露とも思っておらず、対応が遅れた。
俺は全力で引きはがそうとするが、意外と力のあるジャニスを、怪我をさせずに引きはがすことができずにいる。この男、STRをそこそこ伸ばしていたようなのだ。文官ではありえないくらい力が強い。
そうやって騒いでいれば人が集まるし、ジャニスの仲間の方が先に大勢集まった事で俺はこの場での逃亡を断念するしかなくなるのであった。
真面目な話として、俺はどうして手伝いたくないかをジャニスに丁寧に説明する。
復活するとしても精神に異常をきたす可能性が高い事。
補給物資の運搬を狙うのが地球における常識である事。
そもそも人殺しなんて関わりたくない事。
その為なら今の生活を捨てることになっても構わないと思っている事。
メリットとデメリットを天秤に掛ければ、間違いなく戦争不参加の方がいいに決まっていると、人の増えた部屋で俺は断言する。
「ギルドの仲間も前線の戦力、その中核として参加するようですし、ギルドマスターとしていいところを見せてくださいよ。
我々が信用できないようでしたら、お仲間に護衛についてもらえれば逃げ切る事も出来るでしょう? それぐらいの融通は利かせますし、それを味方に邪魔させることもしません。ある程度の権限を与えるともありますね。
もちろん報酬の方もちゃんと用意しますし、前払いしても構わないと言われています。
……望むのなら、王位継承権の無い末席の姫にはなりますが王女殿下との婚約を認めるとも書いてあります。要りますか?」
「要りません。と言うより、嫌がらせの類ですよね!?」
「違います。それだけ王国としても本気なんですよ」
「婚約者を決めたばかりの男に、もっと位の高い婚約者とか。嫌がらせ以外の何だって言うんですかー」
グランフィストに、この王国に縁も義理もある他の冒険者は、クラン単位で戦争参加を決めたようだ。
彼らは俺と違い、嫌々参加するのではなく、自分の意思で参加を決めている。
ギルドマスターとして、その考えに俺は反対しない。
彼らはこの国でもかなり高めの戦闘能力保有者なので、王国側としては嬉しい報告だろう。いや、敵にもダンジョンで鍛えられた冒険者がいる以上、彼らの参加は絶対に必要だったのだが。
王都の兵士もジョブ解放はしてある。
ダンジョン攻略をする気の無い連中の何割かは王都の方に移住をしていたので、そこで王国の兵士として拾い上げられたりする中で、王侯貴族と兵士はジョブ解放が当たり前となっているのだ。
戦闘のあまりない兵士生活でも総合レベル6や7は普通に目指せるし、貴族の中には護衛を上手く使ってダンジョンに入りレベリングをしていたのもいるようだし。数の多さも考えれば戦力としては大きく負けていないと思う。
戦力はかなりあるし、大地の都を落とすぐらいは、何とかなるかな。
問題はその後の、東西に伸びた防衛戦をどうやって守り抜くのかだけど、それは俺が考える事じゃないか。
だからさ、俺の手を借りる事は必須じゃないと思うんだよ。
何とか諦めてくれないかなぁ?