風の都
見たいものは見たので、ティールガルドからさっさと帰る事にした。
こっちの連中は王都よりも俺に注意を払っていないのか、それとも単純に興味が無いのか。貴族に絡まれる事無く終わったのがちょっと気になった。
やっぱり付け焼刃な日本人たちより、長年貴族をやっていた連中の方が厄介と思った方が良さそうである。
今回の独立騒動。
王都と火の都と二つの都市を見て思ったが、どちらも痛み分けと言うか、あまり良くない状況に追い込まれている。
商人の行き来が消えた途端に寂れていく街を見れば、どれだけ商業が大事かよく分かる。都市と都市を移動する商人が持ってくる物と商人が買ってくれる物と。その流れが止まっただけで大惨事である。
このままであとどれくらい経済活動が持つのか分からないが、このままでは済まないというのだけははっきりしている。
最悪ではなく既定路線で、戦争になるだろう。
グランフィストの領主が言っていた「戦争」って、まさかこの事じゃないよな？
俺はてっきりグランフィストとヤマト村の連中の戦争だとばかり思っていたけど……。そう言えば、相川たちは他の都市の日本人と連絡を取り合っていたのか？ 独立の兆候を察知していたのか？
それによっては面倒なことになるかもしれない。
俺が関わらずに済むなら、何でもいいんだけど。
この流れ、嫌な感じはするんだよな。
ちなみにグランフィストの立ち位置は王国よりだが中立に近い。
独立しようと動いた３都市との交易はまだ続いているので、以前よりも経済は活性化している状態だ。
例えるなら朝鮮戦争中の日本みたいなものだろう。
どちらの勢力の商人もグランフィストを介して繋がる方法を選んだのだ。得られる中間マージンは膨大な額になる。
死の商人に近いが、そうやってどちらにも物を運ばないとガチで戦争になるだろうから、これは平和維持活動なのだと思う。敵を大量に作りそうな平和維持活動なのは認めるけど、やらないとすぐに戦争になりそうで怖い。
特に食料関連が止まったままだとすぐに戦争しないといけないっていう話になり、誰も止められないだろうな。俺でもそうするだろうし。
グランフィストの商人は、ヤマト村の連中ほどではないがゴーレムを使った高速移動・大量運搬手段を手に入れいている。
それが無ければ現状に対応しきれ――てはいないか。
新しい運搬方法とかを手に入れ、それでも手に余る量の商取引を持ちかけられているんだ。稼ぎ時だろうと人手が足りない。
人は簡単に育てられないし、集まらない。戦闘のレベル上げよりも商人としてのレベル上げはとても難しい。リスク高めの戦闘よりリスク高めの商取引の方が危険度は高そうだからな。商人のレベルなんてステータスで見れないものは、一回二回の商取引だけでどうにかなるものでもないだろうし。
少なくとも新人がベテランとまでは言えずともそこそこの商人としてのノウハウを得るまでは混乱が続く。
ちょっと前にあったジャニスさんは再び死にかけていたよ。経済的には美味しい状況でも、それを捌く文官にはデスマーチでしかないんだし。文官は商人以上に人手が足りないだろうからなぁ。死なない程度に頑張ってほしい。
あとは揉め事が増えたので、衛兵の仕事も増えている。
ゴラオン達、元衛兵組には街の巡回の仕事がギルドに指名依頼されるなど、戦闘能力以上にマンパワーが求められる状況である。
これはグランフィストが商取引の優位性を持ち、そして人手不足から仕事を厳選することに不満を抱いた他の都市の商人とその護衛が、よく喧嘩をする為で出番が増えたためだ。ついでに商人を狙った盗賊やゴロツキも増えたし。
雑魚と言っていい商人の護衛を制圧するのは簡単なんだけど、複数個所で喧嘩があればどうしても人手が欲しくなるからね。衛兵ではない普通の兵士を借り出してなお人手不足とか、どれだけ治安悪化を招いているんだか。
都市内に商人たち以外、職を失い流れてきた難民を入れないようにしているにもかかわらずこんな状態では、トータルで見ればマイナスの方が多いかな？
やっぱり戦争はろくでもないな。
さっさと決着をつけてほしいものである。
