火の都(前)
人間は学習する生き物である。
少なくとも、俺は過去に学ぶ男のはずである。
しかし危険を承知でやらねばならない事も存在していて、それが過去の過ちを繰り返す事であろうと怯んではいられないのだ。
「かゆい……うまい……」
「ははははははは」
「ララは、ね、おそらをとべるんだよ」
被害者3名。
「マスター。さすがにこれは酷いと思います」
耐性獲得者1名。
冒険者ギルドのギルマス、レッド=スミス。火の都、『ティールガルド』に立つ。
もちろん、空の便で。
犠牲者を増やしつつ、俺は再び遠征に来ていた。
王都からの召喚状を無視している俺だが、王都以外からも誘いが来ている。
具体的には独立戦争中の3都市である。
簡単に言ってしまえば「味方にならないか」というお誘いであり、興味があれば来てほしいと入門許可証付きでお手紙が来ていた。
当たり前だが、負けると分っている連中とつるむ気は無い。勝ち馬に乗るのであっても、もっと早くに誘ってくれなければ参加する気にもならないし、今更招待状が届いたからどうだという話である。
連中が俺を重視しているようには見えず、誘い文句も記憶に残らない程度に陳腐な内容。
誰が好き好んでそんな連中と仲良くするというのか。
地球の歴史に学ぶのであれば、革命家は途中で断頭台の露に消えるのがお約束である。
俺は自殺志願者ではないので距離を置く事にした。
したのだが、やっぱり今のうちに他所の都市を見ておこうと思い、こうやってティナの背に乗ってきたわけだ。
今度の目的は都の地形を把握するよりも、独立のせいでどんな風に街が変わったかを調べるためだ。
商人たちの行き来は確保されているので、彼らから情報を得る事は出来る。しかし、自分の目でもちゃんと調べたいのだ。
火の都が、荒廃していっているという、とてもマイナスイメージの付きまとう情報だったが故に。
分かり切ってはいたが、革命は失敗の模様であった。
ティールガルドは、砂漠のオアシスに相当する街である。
南国というと砂漠か熱帯雨林の2択なのだが、ここは砂漠のオアシスの街だったわけである。
オアシスとセットでダンジョンがあるから巨大都市となり、それが理由でオアシスがあるにもかかわらず水不足に陥るというかなり問題の大きい都市。
そんな事情を抱えていたがために水属性魔法の使える日本人にいいようにされてしまった、残念貴族の治めるティールガルド。
そんなティールガルドは分かりやすいぐらい人の気配が無くなり、大都市としての名を完全に落していた。
王都もそうだが、人が減って街並みはゴーストタウンとまではいかずとも店と店の間に不自然な隙間があり、シャッター商店街化をここでもしていた。
商人の呼び込む声もあまり聞こえず、どこか元気が無い雰囲気だ。
少なくとも、「もっとティールガルドを発展させよう」と革命を起こしたようには見えない。
王都に対して経済制裁を布いて自爆した、馬鹿な連中のなれの果てであった。