王都散策⑦
伯爵との出会いがプラスかマイナスかの判断はさておき、出来る事もやる事も、もう無さそうだからさっさと帰る事にした。
では、宿を引き払って朝一で帰ろうと思ったのだが。
「まさか、昨日の今日で宿に人を送り込む馬鹿がいるとはねー」
「むしろ昨日の騒動で人が来たのでは?」
「きっと邪魔が入る前に確保しようとしているんですの。ララたちは大丈夫か、試してみますの?」
「ララさん、それは危険じゃないでしょうか?」
いつも起きるのより早い時間、外が騒がしいので目が覚めてしまった。
予定では朝一でティナの背に乗って一気に移動する予定だったんだけど。
なんの騒ぎかと思えば、伯爵が付けてくれた騎士がなんか偉そうな奴と押し問答をしている。
そこに俺達が顔を出せば面倒な事になりそうなので、こっそり出ていくのが良いだろう。もしくは思いっきり目立つ方法になるけど問答無用で逃げるか。
「騎士様のためにも、目立った方が面白そうですの」
安全策と劇薬のような方法と。どちらにするか相談してみたが、みんなも迷っているようだった。
その中ではっきりした意見を持っていたララの意見を採用し、派手に逃げる事にした。
「≪神竜召喚≫ティナ」
俺達は宿の屋根の上に上り、そこでティナを強化状態で召喚。
普段より一回り大きなティナの背に乗り、一気に王都の外へ向かって飛び立った。
「ま、待たんかーー!!」
背に声が投げかけられるが、そんなものは無視だ。気が付かないふりをして王都の外へと直接出ていく――わけもなく、ちゃんと手続きをして門をくぐってから王都を後にした。
ちゃんと手続きはするよ?
そうじゃないと、後で面倒な事になるからね。都市の無断・不法な出入りは禁止されているからね。
お金が必要な入る方と違って、出ていく分には税も何も無いけど、それでも犯罪者みたいに静止を振り切って出ていくのはアウトなんだよ。わざわざ捕まる理由を作ることも無いのだ。
「ねぇ。結局、王都まで何をしに行ったの?」
「王都の地形確認。出来れば情報を仕入れたかったけど、貴族の中でも俺の扱いが別れるってのだけは確認できたし。完全に無駄だったわけじゃない、と思う」
「まぁ、いいですけど」
イーリスは微妙な顔をしている。
桜花はあまり表情に出さないが今回の王都訪問は面白くなかったようで、ララはなんだかんだ言って楽しめた様子。
俺は王都では何もできなかったようなものだし、独立運動の件が片付いてからまた行けばいいかと思っておく。
もっとも。
「次は絶対に行かないわ」
「ララも、次に行くとしたら馬車が良いですの」
「マスター。人は、空を飛ぶようにできていません」
飛び立った直後の、ゆっくりとした速度ならともかく。ある程度加速した後では命の危険が身近な状態は、彼女たちのトラウマになりつつあったが。
独り留守番だったミレニアはそんな3人をからかっていたが、実際に体験すると声も出ないほど恐怖を味わったようだ。
車や飛行機に慣れた人間とそうでない人間の間には、わりと大きな差があるようであった。
4層はソラカナで空を飛ぶんだけど、大丈夫かね?




