王都散策⑤
当たり前だが、集団が一つあればその内部には様々な派閥が産まれる。
強大なカリスマでまとめられた集団ですら例外ではない。カリスマリーダーの為にと考える人間に個性があるのだからしょうがない。ある部下は敵対する者を勝手に攻撃したり、ある部下は不穏分子と称して別の仲間を攻撃したり。一言でまとめれば、ろくでもない事になる。
だから俺を利用したい派閥があれば俺を利用してほしくない派閥も、もちろん存在する。
利用したい派閥でも生贄だったり軍事利用だったりと様々だろうけど。
サミスタ伯爵はそんな派閥に俺を利用させたくない訳で、とっとと帰れというのは彼女側の事情を考えれば間違ってない訳だが。
「MPが足りないのですぐに帰るのは無理です」
こちらにも事情があるんだよ。
ここに来るまでにMPはほぼ使い切ったし、回復させるためにも明日までゆっくり休みたい。
いきなり帰れと言われたって、出来ないものは出来ないんだ。
俺のはっきりとした返事に伯爵は顔を引きつらせるが、貴族への礼儀も知らない平民などこんなものと分かっているのだろう、すぐに持ち直した。
余談ではあるが、一般的な平民は貴族への礼儀なんて知らない。ごく一部の組織の幹部や大商人などは知っているけど、それぐらいだったりする。
教養を学ぶ機会の無い平民は、ただ頭を下げていればいいっていうのが一般的な対応である。
とりあえず騎士を1人借りる事になり、1日休んで帰る事になった。
本来なら2泊なんだけど、さすがにそれは無理っぽい。宿も指定された、もっとグレードの高い所になってしまった。お代は払わせたけどね、変にかしこまった店員を相手にすると居心地は良くないので嬉しくもなんともない。
騎士を借りれたのは護衛ではなく「貴族の相手をさせる為」である。
平民が貴族に何かしたら大変だが、階級に違いがあっても貴族同士で何かあったのならまだ対応がマシになるかららしい。何気に法律を学ぶ機会を与えられない平民さんには正否の判断がつかないのだ。
嫌な話だが、後だしじゃんけんの為にも平民に法律を知る機会はほぼ与えられない。何かあったら法律を持ち出して裁くくせに、である。
騎士は護衛ではなく監視員のような気もするけど、そこに突っ込んでいたら話が進まないだろうからスルーした。
騎士が残ったけど伯爵がいなくなったので、今後の予定を相談しよう。
「じゃあ、今日の予定を決めようか。
本当なら今日はゆっくり休んで明日から情報収集の予定だったけど、それも出来なくなったからね。
夕方に酒場で噂話を聞くのは確定として、適当に大通りを冷かしてみようか」
「それでいいと思います」
「他にできることも無いですの」
牽制になればいいなと、さらっと嘘を混ぜつつ今日の予定を決める。
特に反対意見が出ないので、じゃあそれでいいかと話をまとめる。
実際、こんな時に何をすればいいかなんて誰も分からないからね。冒険者と言いつつ、実際はダンジョン攻略しかやってこなかったし。情報収集の仕方など、誰も知らないのだ。冒険スキルの中には≪情報収集≫とそのまんまのスキルがあるけど、必要ないと思って誰も取っていないし。
そんな訳で、騎士を連れた素人集団が街へ情報収集をしに出かけるのだった。




