王都散策④
色々と負けている事を認めはするが、負けっぱなしで交渉に臨むのはあまりよろしくない。イニチアチブを持っていかれてしまうし、負けっぱなしは精神衛生上、良くない。
なので、相手の名乗りから気が付いたことを突っ込んでおこうと思う。
「サミスタ伯爵、本題の前に一つだけ聞かせていただきたいのですが」
「はい、なんでしょう?」
「なぜ、女装しているのですか?」
「あら、まぁ! よく気が付きましたね」
サミスタ伯爵、彼は女ものの服を身に纏ってはいるが、男性じゃないかと思ったのだ。
骨格を見れば女性のように見えるし、喉仏も見当たらない。注意深く観察しても男には見えない。
だが、伯爵と言う事は、男なのだ。
もしも彼が女性なら女伯爵と呼ぶべきであり、普通は伯爵とは呼ばない、はずだ。
この国ではどうかなと一瞬思ったが、正解だったようで何よりである。
彼は俺の指摘後も女性としての振る舞いをそのままにし、もう面倒くさいので女性扱いしようと意識を切り替える。
この程度のやり取りで何が変わるということも無いけど、一応はやり返した実績を一つ作ったと自分の中で完結し、本題に入る。
「一応聞きますが、貴女も俺を城に連れて行くと言いますか?」
「いいえ。そのような事は言いません」
「え?」
「それでは、なぜここに来たのですか!?」
たぶんこれが本題かなと思い、質問をしてみたら思わぬ答えが返ってきた。
イーリスも驚いて思わず口を挟んでしまった。
「王都に来るようにというのは、私の派閥の発言ではありませんので。そもそも、来ていただいたとしても、何かして頂きたい事などありませんよ。
一部の者達は貴方を使って交渉を有利に進めたいと言ってはいますが、私から見れば何ら有効になる材料とは思えませんし」
伯爵はニコニコと笑顔で、それなりにきついことを言ってくる。
事実ではあるが、無価値なように言われるのは面白くない。
「私が求めるのはグランフィストの協力であって、冒険者ギルドの協力ではありません。都市運営に関わらない、都市内部でそれなりの地位にある人を動かすのはむしろ無駄です」
ちょっと訂正された。
俺の心証を損ねたと思ったからか、それとも何も気にせず思ったままを口にしているのか。今一つ判断がつかない。
「お願いしたいことがあるとすれば、グランフィストの物資をより多く売ってほしいと、私が言っていたことを伝える事ぐらいですか?
まぁ、それは別の書状で依頼しているので、絶対にして頂きたい事ではありませんが」
「本当に俺の出番はありませんね」
「兵士でも何でもない方に出番がある方がおかしいのですよ」
戦争に関わりたくない俺にとって何も無い方が望ましいのだが、こうまで言われると皮肉の一つでも口にしたくなる。
その皮肉に対し、正論であっさりと切り返されるが。
「ですので早々にお帰り下さい。王都に留まられてはかえって迷惑です。貴方がいては余計な騒動が起きますし、その所為でグランフィストの心証を悪くしたくないのです」
サミスタ伯爵は、本当に俺を王都に呼びたがっている連中とは別の派閥の様だ。
清々しいまでの笑顔で俺に「帰れ」と言い切った。




