王都散策③
「しかし、なんでバレたかな?」
王都の裏路地、俺達はそこに身を潜める事にした。
一度一般の人目を遮らないと追跡者のあぶり出しができないので、人目につかない場所に移動しただけだが。今度は裏路地をテリトリーにしている浮浪者らしき連中の注目を浴びてしまった。
さすが王都、どんなところにも人がいるね。
完全に人目を遮らないならば諦めを付け、この場で息を整えるついでに状況を整理することにした。
「偽名を使って、簡単な変装をして。バレない工夫は一応したんだけど。なんでバレたと思う?」
「それは10歳ぐらいの年若い少年と若い女性だけの実力ある冒険者らしき姿を見つけたら報告するように連絡しておいたからですね」
「誰だっ!?」
仲間と相談するつもりで疑念を口にしたら、先ほどの女性の声が聞こえたので、思わず誰何の声をあげてしまった。
誰とは分かっていても名乗りは聞いていないからね。サミスタ伯爵だっけ? 確かそんなふうに呼ばれていた気がする。
振り返れば先ほどの女性がさほど服を乱すことも無く経っていた。ひらひらしたスカート姿なので、どう考えても走るのには向かないと思うんだけど。
彼女は俺の視線を受けるとにっこりと微笑み、会釈する。
「はじめまして、グランフィストのギルドマスターさん」
レベル的にはそこまで脅威であるように感じない、しかしどこか底知れぬ雰囲気のサミスタ伯爵は、場所を忘れさせるほど優雅な挨拶をした。
サミスタ伯爵から名乗りを受け、俺達は「場所を変えませんか?」という提案に乗る事にした。
向かう先は適当な飲食店にするという事なので警戒のレベルを少し落とす。本当はもっと警戒していた方がいいんだろうけど、長丁場となると警戒を維持しきれなくなるんだ。集中力を維持するのは疲れるので、警戒しすぎるのは良くないという話。
他の仲間にも目配せしておき、余力を残すように頼んでおく。3人は長く組んでいた仲間だけに、わざわざ言葉にせずとも俺の意志を組んでくれる。
場所を指定することは、互いにできない。
俺は初めて訪れた場所だから土地感が無いし、サミスタ伯爵は来た事はあっても店を使った事など無いからだ。
仕方が無いので、適当に目についた店を選んだ。
個室は無かったが、秘密の話をするわけでもないし、ある程度開けた場所の方が用心しやすい。酒場兼飲食店の一角で俺達は席に着いた。
「改めまして、挨拶させていただきます。
私はサミスタ伯爵の号を拝命しました、レイチェル=ウィシュフォードと言います。以後、お見知りおきを」
「ご丁寧にどうも。既に知っているとは思いますが、グランフィストで冒険者ギルドのギルドマスターをしているレッド=スミスです」
相手が名乗ったので、こちらも名乗り返す。他の面々もそれに倣って名乗りをあげる。
すでに面が割れているため、偽名などは無しだ。
そうやって挨拶をすると、本題前になんで俺達の事がバレたのかを聞いておく事にした。
「簡単です。我々は事前にグランフィストに人を遣り、貴方の顔と性格を確認させました。
その性格から言えば、召喚状に応じない事と王都へ確認に来ることは予測できましたので、門番たちに話を通しておいたのです。もちろん人相書きは門番に見せてありますよ」
ニコニコと笑顔を崩さない伯爵の言葉に、俺は思わず天を仰いだ。
この世界は電気通信のような遠距離通信技術が無い。写真やビデオカメラのような動画も無い。その為、俺はこの世界の住人を見下し、甘く見ていたようだ。
それならそうと、他に手を打つなど、考えもしなかったのである。
写真や動画が無いなら、その環境下で何が出来るかなどと考えもしていなかった。
あれができない、これができない。
だから大丈夫。
そんなわけ、無かったのだ。
革命を許すような連中だからと、無意識下で相手を馬鹿にしていたのは間違いだった。
想像力の面で、今の実力で、俺はこの世界の住人に劣る。
まずはそのことを認め、念頭に置かねばならないようだ。




