王都散策②
王都に着いた俺達は、まず宿の部屋を確保することにした。
一般的な宿屋、俺が最初の頃に使っていた宿の値段は1人一泊20Gだったので、それを同じぐらいの宿を門番に紹介してもらった。
宿代節約のため、4人部屋を確保した俺達。
グランフィストよりも物価が高いためにあまり質が良くないように思ったが、値段で指定した宿に文句を付ける気は無い。その程度の事は妥協すべきを諦める事にした。
そして紹介された宿屋で一休みしようとすると、部屋のドアをノックされる。
王都に来たばかりの何故か俺の客が訪ねてきた。
「お客様、その、王宮から使者様が来ているのですが……」
宿の店員にも予想外の出来事だったのだろう。俺を呼ぶ声は戸惑っているように感じる。
「人違いでは? 俺達は王都に知り合いなどいませんし」
「はい。使者様は「レッド=スミスという客が泊まっているはずだ」と仰っています。そのような名前は聞いていない、人違いと説明したのですが、お客様をご指名なのです」
門をくぐるときや宿に泊まるとき、念のために全員が偽名を使った。少なくとも、名前からバレたと言う事はないはずなんだけど?
宿の店員にしてみれば、貴族階級の言葉に逆らう事は出来ない。商業上の不義理など、法を作る立場の貴族相手には通用しないのが普通だ。
人治国家の不条理に俺が頭を痛めていると、許可を出したわけでもないのにドアが開かれ、ご立派な装いをした中年が無断で入ってきた。
「『神竜召喚士』にして冒険者ギルドのギルドマスター、レッド=スミス。私と共に王宮へ来てもらうぞ」
「お断りです」
顔を合わせた途端にいきなりこの御仁は命令してきたので従う気が無いと一刀両断。
いきなり入ってきた貴族が誰で、どんな思惑があるかもわからないのに命を預ける気にもならない。名乗られたところで誰かも分からないから無作法で無礼な態度はスルーするけど、俺の印象は最悪である。おっさんの後ろに兵士が控えているのも気に喰わない。
この国に義理の無い俺は命令に従う義務も無い――とは言わない。だが、義理以上に俺の命の方が優先されるというだけである
まともに話す気が無い相手なら、こちらもまともに応対する気にはならない。
MP的には厳しいが、ここから逃げ出すのは簡単そうだと周囲にいる兵士のレベルをなんとなくで感じ取る。さすがに2年も戦闘職をしていれば、スキル無しでも気配や動きで相手の練度を推測ぐらいできるのだよ。
「この、平民風情が。者ども、こ奴を――」
「待ちなさい!!」
俺に従う意思が無いのが分かったことで、強制的に連れて行こうという気になったのだろう。おっさんは兵士に声を掛けようとした。
しかし、その命令の前に別の声が割り込んだ。
声からすると若い女。
おっさんよりもやや豪奢な衣装に身を包んだ20代半ばの女性が現れた。
「卿、これはどういう事でしょうか?」
「サミスタ伯爵! 退け、これは私が持っていくのだ!」
おっさん、俺をモノ扱い。思わず額に血管が浮かびそうになるほど苛ついてしまう。
それと同時に新しく現れた女性の方にも猜疑心を抱く。
タイミングが良すぎる事も含め、ここまでの流れが仕込みではないかと思っただけだ。
しばらく2人は言い争っていたが、俺はそれを好都合と判断。仲間に目配せして窓から脱出を試みる。
「あーばよ、とっつぁん!!」
「「ああっ!?」」
去り際の台詞はネタを絡めて。
俺達は王都の街並みに姿を消すのだった。




