『花園』のハーピー(前)
今回、ダンジョンに長期潜ることを前提として計画を立てた。
長期と言っても12時間を目処にしているが、それでも今まで以上に長い時間をダンジョンですごすことを考えている。
ダンジョンに潜りだしたのが朝の8時なので、夜の8時まで拘束される事になる。
泊りがけでなければ宿の対応も含め、これが限界時間となる。
探索時間が長くなるというのは、探索者にとって大きな負担となる。
主に水や食料品が増えただけだが、普段の探索と比べればそれは大きな負担増である。水と食料で人数×1㎏は増加し、この負担を避けるためにこれまでは1時間とか2時間で帰る事にしていたのだ。
もっとも、その負担増は俺の分だけで済み、かつ荷物持ちのローズマリーがいるだけで無いものとしていいのだが。
魔法生物、魔力だけで生きていけるのはダンジョン探索にすごく有利な種族特徴です。
久しぶりのダンジョンだが、最初は相変わらず地下通路である。
最初の方でモンスターが出る事は滅多になく、二つ目のエリアでもモンスターは1~2体しか出ない。
入り口付近はモンスターよりも人間に気を付けろと言われるぐらいだ。
そんなわけでさっさと早歩きで2つのエリアを通り抜ける。
途中で小銭を拾ったが、最初の方ならこんなもんかな、といった具合だ。
3つ目のエリア。
今回は『花園』だった。
TRPGの時はエリアの描写なんて適当というか、「ここは花園です」で終わりで良かったんだけど、リアルで花園を見ると驚く他ない。
自分たちが今まで通ってきた地下通路は山の洞窟といった扱いになっているが、空間がワープ的な何かで繋がっているようで、花園に出たとたんに空気が変わったのが分かった。まぁ、花の匂いですぐに分かるんだろうけど。空間的に繋がっているように見えて、実は連続性が無いのである。
『花園』に出ると、そこは灯りが必要ないほど明るい空間だった。
疑似的な異空間なんだろうけど、空があり、太陽が見え、花が咲き誇っている。
花園の名の通り見渡すばかりの花畑なのだが、10分ほど歩いた先に大きな広葉樹が一本だけぽつんとあり、その周囲にモンスターがいるのが見えた。
モンスターの数は7体。こちらよりも多い。
種族は鳥人間。人間の顔をしているが、腕が翼で下半身は鳥のモンスターである。人間部分は例外なく若い娘の姿をしているが、アレに欲情するのは相当レベルの高い紳士ぐらいだろう。上半身裸でも、アレは無い。
高レベルのハーピーは魔法を使うが、低レベルのうちは足の爪でひっかいたり、掴んで持ち上げて地面に叩き付けたりするらしい。
飛んでいる相手だけあって、隊列が意味をなさないのもこのモンスターの特徴だ。
ただ、相手が飛んでいるだけなら、戦いようはある。
こちらには同じく飛べるティナがいるし、魔法の使える桜花もいる。
俺とフェンネルが防御に専念し、キャラウェイやローズマリーは投石で戦えばいい。
このメンバーでの初戦が多数、しかも飛んでいるモンスターを相手取るというのは運が悪いと思うけど。
それでも負ける気がしない。
「絶対に、勝つよ!」
「はい!!」
勝ってみせると声に出して気合を入れ、俺はティナを召喚するとハーピー達に向かって足を踏み出した。