召喚状
現実っていうのはいつも理想と妥協点の探り合いだ。
周囲が戦争状態になった、自分たちは参加したくない、せめて物を寄越せ。王都と領主様はそんなやり取りをしているのだろう。
王都の貴族たちも一枚岩ではないので、中には独立を認めるからと仲介を依頼してくる奴もいるんだろうね。そんな事を認めたら国のメンツが潰れて立ち行きいかないわけだが。下手に弱腰なところを見せると骨の髄までしゃぶりつくされるのが国家間交渉なのだ。
とまぁ、ここまでが俺に関わりの無い話。
「王都からの召喚状が届いている」
「お断り。たとえ首に縄を付けられようが、王都なんて行く気は無いよ。話がしたいなら、こっちでする。死地に飛び込む気は無いんだ」
領主様経由で俺に王都へ出頭命令が来た。
今回の件に関わっている、重要な立ち位置を占めているのは日本人だ。それ故に、協力的な日本人代表として俺に白羽の矢が立つのは当然の成り行きである。
まぁ、そこまで協力するとは絶対に言わないけど。
協力しない理由は至って簡単。
俺は死にたくないからだ。
もしも俺が王都に行った場合、俺はかなり高い確率で謀殺されるだろう。
王都にいる連中にしてみれば、俺も日本人という括りでカテゴライズしている奴が絶対にいる。そして俺を不満のはけ口として監禁したうえで生贄のように殺すだろう。
そんな事をする奴がどれだけいるか分からないし、逆に俺を守ろうとする勢力もあるだろうが、そんな自身をチップにした賭けなど許容できないのだ。
俺は俺の命が惜しい。
俺が王都に行くことで掬える命があるだろうけど、そんなものは確固とした意思で切り捨てる。
他人の命は俺の命より価値が低いのである。自分最優先、それが俺だ。
死んでも生き返れる世界だけに、余計に慎重になる必要があるのだ。何回か殺すことで心を折りに来るかもしれないからな。生き返りが可能な以上、どんな無茶でも可能なんだから。
俺自身、わりと高レベルなのでジョブ1つでレベル8ぐらいの兵士が相手なら、まず負けない。10人ぐらいは平気で相手に出来るだろう。レベル10の精鋭を相手にしても1対1ならまず負けない。
だが、王都が敵地である以上は物量に負ける事もあるだろうし、自陣ではないので救援も望めない。リスクは高く、それで「自分の身ぐらい自分で守れる」と言うのは愚か者のする事だ。そもそも、俺は謀殺されそうになった時に身を守るすべなど持ち合わせていないのだ。何に気を付けて何をしちゃいけないとか、そんな基本的な事すらわかっていない。精々が食事に毒を混入されないようにするぐらいだ。
ギルドの仲間たちだって、国と言う最大勢力が相手になってしまえば俺を裏切る可能性がある。本人の考えや意思とは無関係に、脅迫などの手段も取られるだろう。普通は国の決定に従うのが一般人なんだから、しょうがない。
この件で信用できそうなのは桜花ぐらいしか思いつかない。
次点でクランの仲間ではなく利害関係の薄そうな日本人連中か。あいつら、他都市の日本人と間違いなくつながっているだろうけど。
「王都からの召喚状は強制的な命令と考えてください。我々に拒否権は無いんです」
「なら、王都に行かなくて済む為に、他の都市に逃げるだけだよ」
「反逆罪が適用されますよ?」
「反逆するように強制する人間の言う事じゃないよね。そもそも、俺は他の都市にいる日本人と繋がりが無いんだ。言える事なんて何も無い奴のために、なんでそこまでするんだよ」
「忠誠心を試しているんですよ。王都に来れば味方で、来ないなら敵だと言われるのです」
使者の役目を負ったジャニスさんの表情は険しい。
俺が協力する意思を僅かしか見せないので、どう説得するか考えているのだろう。もしくは、俺を捕縛して連れて行くかどうか迷っているのか。
俺の背負うリスクを考えると、単純に人を出すだけでは足りないというのも大きい。本気で守る気があるなら相応の地位の人間を動かさないといけないし、その人と信頼関係を結ぶ必要まであるからだ。
結局ジャニスさんは俺の説得に失敗し、すごすごと帰っていくことになるのだった。




