幕間:世界革命
風の都市グランフィストの日本人は、貴族によって街から締め出された。
結果、彼らは独自の生存戦略を取る事を強いられた。
彼らの苦労は相当なものであり、当初は幸せな生活など望むべくも無かった。
艱難辛苦の果てに掴んだ平穏こそ貴ぶべきであり、それを守ろうとする動きは正当な権利の行使である。
では、他の都市ではどうだっただろうか?
火の都市は砂漠のような水不足に悩む場所であり、水の精霊や魔法の力で大きな利権を得た。
水の都市は極寒の地であり、火の精霊や魔法の力で庇護を得た。
大地の都市はその生産力で。
どこも、既存の利権を脅かすほどに大きな立場と力を得てしまったのだ。
“不幸な事に”
既得権益との戦いは、どこも血で血を洗う闘争となる。
これも一つの戦いである。
グランフィストの冒険者たちは生存のための戦いに加え、ダンジョンで己を磨く事に力を注いだ。
その結果、他のどの都市の日本人よりも戦闘能力が高い。苦難の中で研ぎ澄まされた剣なのだ、彼らは。ただ政治的な意味では弱く、グランフィストに対抗しうるのは武力しかない。総合的にはまだ負けている事を理解している。
他の都市にいる日本人たちは、まだ都市に打撃を与え得るほどの武力を持っていない。共存のぬるま湯が刃を錆びさせたが故に。
ただし、それに代わる政治力や経済力を持っていた。
そんな彼らは彼らなりの闘争を行う。
すなわち、権力奪取、クーデターである。
他3都市の日本人は武力行使こそしなかったが、貴族を追い出し実権を握るために動き出した。
それをするだけの、地盤を得ていた。
それをするのを躊躇うほどの、心理的な壁が無かった。
動き出せてしまったのだ。
「こんなことをして! タダで済むと思っているのか!!」
「もちろんですとも、“元”領主様」
ある都市では水の利権を盾に人を従わせ、ある都市では火の魔法に人を依存させ。そうやって現地人を従えた日本人はそこそこ強い。
数の少なさをひっくり返し、たった2年で領主を上回る力を得た。
力を得た事で増長し、暴走する者が出てしまうほど力があった。
ただし。
彼らは一時の勝利を得る事に力を注ぎ過ぎ、大局を見誤る。
戦争とは勝った後の平和の維持こそ難物であり、ただ勝つだけならそこまで難しくない事を理解していない者が多かったことも災いした。
世界は泥沼のような戦いに満ちていく。




