墓場行き、決定
文化の違い。
結婚に対する認識の差を、俺はその一言で諦める事にした。
個人の恋愛感情を無視するわけではないが、それ以上に家の結びつきを重視するとか、日本人の結婚観とは全く違う部分が多すぎた。
個人の恋愛感情を無視して結婚するからか、男の浮気が許される事がその証拠みたいなものだ。女の浮気? それは駄目らしいよ。
そうやって一部の男が女を独占するから、余った男が出てくるわけで。ギルド内の未婚者は、単純に相手がいなかっただけの様だ。
付け加えると、家の結びつきを考えて結婚する文化のせいか、男も女も15歳ぐらいになると親や上司が結婚相手を探してくるのが当たり前らしい。
ゴラオン曰く、「いい歳をした男が未婚で婚約者もいないとなると、親や上司が無能」と言うのと同じ事になるらしい。おかげで少し怒られた。
たまに個人感情で結婚を嫌がる奴も出てくるので絶対ではないけどね。
俺がそんな異世界の文化にノックアウトされていると、ジャンはとても不思議そうな顔をしていた。隣のバランも同じだ。
「なぜそこまで結婚を嫌う? 私にはそれが分からないな」
「自分の後ろに家が無いのを気にしてるのか? むしろそれをありがたがる家の方が多いぞ。紐付は嫌、よくある話じゃねぇか」
「違いますー。それこそ文化の差ってやつですよー」
最低な話だが、結婚することで生じる責任が嫌なのだ。
結婚したら、嫁さんの人生を背負い込む。産まれてくる子供なんて守るのは最低条件だ。親として幸せにしなくちゃいけない。
自由はあればあるだけいい。不自由は少なければ少ないだけいい。
遊ぶのに何の気兼ねもいらず、しがらみも無く気ままに生きていけるなら、それはなんと素晴らしいことか。
口には出さないが、日本の若い未婚男性なんて半分ぐらいはこんなもんだと思うよ。俺が特別って訳じゃないはずだと信じたい。
相川? ああいうことを言える奴だから結婚してるんだよ。勝ち組妻帯者なんだよ。
「それでも、ずっと結婚しない訳でもないんだろう? だったら覚悟を決めておくべきだ」
「そうそう。嫌な事はさっさと済ませた方が良いぜ。相手のメンツをつぶす分だけ無駄な話だろ」
そうなんだよな。
俺が結婚を嫌がる分、婚約者候補たちの評判が下がる事も含め、多くの人に迷惑をかける。女を用意した領主側が困る分には一向にかまわないけど、仲間にしちゃった彼女らについては、俺も責任があるわけで。
……これ、俺が彼女らの結婚相手を探す義務があるって話でもあるのか? マジで? 上司だからやらなきゃ駄目なのか?
思わず気が付いてしまったもう一つの可能性にとどめを刺された俺は、一ヶ月以内に誰を婚約者にするか決めるので、それまで待ってほしいと言う事にした。
余談であるが、浮気はアリでも複数の女性を妻にする事はしないようだ。妾や愛人は文化的にOKだが、王侯貴族を含め側室という文化は無いらしい。
嫁さんは一人。それが常識のようである。それだけが救いだ。




