余所の錬金術師
「治癒薬、治癒薬有りますよー!!」
「松明の在庫は大丈夫ですかー!? 特製の3時間もつ松明、有りますよー!!」
「鉄鉱石はいつでも高価買取! わざわざ街まで持っていかなくてもここですべて買い取ります!!」
久しぶりのダンジョンは、以前よりも賑わっていた。
増えた人間、そのほとんどが日本人だろう。わざわざ『生産活動推進部』と書かれた法被を着ているから間違えようがない。
生産メインのギルド『生産活動推進部』はダンジョン産のアイテムで色々作るのが楽しいという連中が集まってできたギルドだ。資金力で言えば日本人ギルドの中でも最大規模で、すでにこの都市に根を張っている。領主と繋がりがあるという話も聞くが、流石に一ヶ月でその規模になるのは無理だと思う。
その活動方針は生産メインでやっていくというのが大看板だが、その実、日本への帰還をしないと決めた連中用の基本方針である。
これは『迷宮攻略軍』も同様だが、ゲーム的な異世界に日本人が集団で来た事情も手伝い、この世界を楽しもうという考えが根底にある。日本での生活に嫌気がさしているという言い方もできるな。とにかく、彼らは残留希望組という事だ。
「お、レッド君。おはよう、君らもダンジョン探索を再開するんだ」
「あはようございます、ケミストリーさん。いつまでも訓練では収入がありませんからね」
「それならメイド参加してくれれば出資するよ? メイドさん手製の料理は独占すべきじゃないと思うんだ」
ダンジョン入口の近くで、錬金術師のケミストリーさんに捕まった。
ケミストリーさんは魔術師/人形遣い/錬金術師の男性で、ジョブだけ見ればホムンクルスやメイドサーヴァントを自作できる人である。
ただ、スタートダッシュに乗り遅れてホムンクルスなどの材料がグランフィスト全域で枯渇し、自作できなくなったという経緯があるため、今は生産メインで活動している。
人形遣いになった奴は意外と言うか異常に多く、ホムンクルスやメイドサーヴァントが日本人の手で量産されたんだよ……。
これ、ここに限らず、他の都市もそうだって言うんだぜ……。
何やってんのさ、日本人。
彼と知り合った理由はもちろん桜花とメイドトリオが原因である。
悪い人ではないし、声をかけてくれるのはありがたいが……。
「マスター、急ぎましょう」
「マスター、入口で無為に時間を使う必要はないと進言します」
「「では、失礼します」」
桜花たちからはとても冷ややかな目で見られている。
物扱いされているというか、種族でフィルターをかけて見られているというか、どうにも視線が気になるようなのだ。
なので急ぎこの場から離れたいとばかりに、俺の腕を両サイドから掴み、引っ張るようにダンジョンへと連れて行かれた。
「あ、ホムとメイドさん素材はいつでも受け付けるからねー」
そう言って手を振る彼に曖昧な笑みで別れを告げ、俺は、俺たちは久しぶりのダンジョンへと挑んだ。