異文化交流⑦
俺の周りでは売れているWGだが、庶民にはあまり売れていないという話を聞いた。
カードゲームが言わずもがな。アレは、売れない。
そんなヤマト側からグランフィスト側へのアプローチは横に置き、その逆は何をやっているのかと話を聞いてみた。
「食事処の出店ですね。採算の問題で日に200食を出す店を、5店舗ほど。
同じものを食べるのが仲良くなる為の最善でしょう」
俺に応じるジャニスさんは、最近になってようやく余裕が出てきたらしい。痩せこけていた頬に少し肉が戻ってきた。頭部は、気にしてはいけないが。
「我々が普段食べる食べ物を食してもらうと同時に、かつて袂を別った理由である食事を出すことで、本気で関係改善を望んでいると言いたいのですよ。
逆効果になる可能性も否定はしませんが、文化交流で食事を外すのは下策でしょう」
確かに、食べる物が合わないというのは旅行先でよく聞く話である。まずはどんな食べ物があるのかを知ってもらわないと来てもらった先で困る事になりかねない。
知っていれば対策を取れるし、それが出来ずとも覚悟を決める事ができる。知らず不意打ちのように合わない物を食べる事が無いようにという気配りにもなる。
「問題は、あちらの食べ物を我々が知る機会がないことですね。あちらの食堂を利用するには、まだ我々が受け入れられていない。
レッド君は何とかなりますか?」
「無理ですねー。私も、あっちの食堂は使えません」
残念ながら、俺の扱いは裏切り者らしいので施設利用は至難の業だ。同じ日本人だっただけに、下手すると生粋の現地人よりも敵視されている気がする。
その事はちゃんと伝えておく。つまり、俺が交渉役をやるのはもう止めた方がいいと。
ジャニスさんはもう少しだけ交渉役でいるように俺にお願いし、徐々に距離を取る方向で話を進めると、計画の練り直しを約束してくれた。
さすがにこういった大役は人選が難しいからね。急な変更を簡単にできるわけも無いので、俺も引き継ぎの猶予を貰ったと思って納得した。
ジャニスさんとは軽い雑談をしていたのだが、飯関連の話題が出たところで向こうで食べる事ができない和食や洋食の再現をこちらでするという話になってきた。
俺としてもこちらの飯に不満は無いが、日本で食っていた各種料理が食べられるというなら協力はぜひしたい所である。
こちらの世界では調味料に使える香辛料もそこそこの値段で手に入るし、グランフィストではめったに見かけないが米だって流通している。
俺の楽しく豊かな食生活の為に、可能な限り手を貸すとしよう。
まずは味噌や醤油を買ってもらわないとな。
さすがに1年2年ではヤマト村でも造れてないだろ。味噌と醤油が手に入るだけで奴らとの重要な交渉材料になると思うぞ。
俺はともかく、日本の味に飢えている奴は必ずいるだろうからな。
俺は揚げ物がもっと普及すると嬉しいといったところだが、味噌や醤油にそこまで拘りは無いんだけど。日本人だからと言って何でそこまで拘るのか、いまいち分からないんだよな。