異文化交流⑥
「『戦士』で『騎士』に攻撃ですのー」
「『神官』で『騎士』を守ります。『騎士』の防御を3増やし、生存です」
「残念ですの。でも、そのまま『弓兵』で『神官』を攻撃しますの」
「……手は、無いですね。『神官』はやられました」
イーリスとララが、ボードを挟んで向かい合っている。
2人がやっているのはヤマト村が販売元をしているWGだ。販売と同時に購入してきたらしい。
イーリスはこういった事にあまり興味が無く、リバーシをやっているところは見かけなかった。だからボードゲームには興味が無いものと思っていたのだが。
「ああ、ああいった単純なゲームは好まないというだけです。大体勝てますし、勝てないときは先攻と後攻の勝負という話ですから」
「強いの?」
「普通よりは強いと思いますが、ある程度勝てるっていう人はみんな同じことを言っていますよ」
「そうなんだ……」
イーリスは真顔で俺にそう言い切った。その表情に自慢するような色は無い。ただ、事実を言っているだけという顔だ。
ある程度以上やりこんだため、すでに作業になってしまうだけのようである。それ以外に娯楽が無ければそう言う事にもなると思うけど、うん、これ以上は考えなくてもいいか。あんまり意味が無い。
そんな2人を横に置き、ギルドハウスの集会所、人の集まるフリースペースでは、同じようにWGをやっている連中が大勢いた。
中にはボードを複数用意し、2つ繋げて大人数で遊ぶ連中までいる始末だ。WGは冒険者にかなり人気らしい。
「『戦士』の数が多い方が有利なんだよ!」
「いいや違うね! 『弓兵』の一斉攻撃の方が強いだろ!」
「『召喚士』で奇襲すれば終わりじゃないか!」
「『魔術師』で『弓兵』を一掃するのもいいよね」
「逆だろ! 『弓兵』は『冒険家』で奇襲する側だっての!」
ゲームの戦術を騒ぎながら試し合う冒険者たち。騒いでいても、最終的には「じゃあ実際にやってみればいいだろ」という流れになるので、物理的な実力行使には至らない。それをやったら自分の戦術が劣ると言う様なものだからだ。
ただし、頭に血が上った状態では簡単なトリックに引っ掛かったりもする。
「いやー。この『魔術師』、聖属性なんだよね」
「ちょ、おま!」
「はい、ダメージ無効ね。こっちのターンだ。『弓兵』に『戦士』で攻撃」
「ぎゃー!!」
『魔術師』『召喚士』はチェスで言うクィーンのような『切り札』となる駒だ。
「属性」「召喚モンスター」という、どちらも伏せ札を用意することで非常に高い汎用性を持つ。
その分だけその他の能力が低く運用には細心の注意が必要なのだが、ハマった時の効果は絶大だ。一気に戦場をひっくり返す。
他にも『荷運び』も同様の、トリックスターとしての役割を持つが、それはそこまで大きな影響を及ぼさない。
しばらくして聴こえてきた話ではWGは貴族たちや軍人たちの間でも流行っているそうだ。
なんにせよ、WGはそれなりの立場を一気に確保した。
逆にカードゲームの方は、一部の冒険者がモンスターの特徴を覚える為に購入するに留まった様で、こちらはゲームとして見られていない可能性すらある。
売れ行きは最悪の2歩手前のようだ。
彼らが何の理由でこの2つを販売しだしたのかは分からないが、その目論見は半分ぐらい成功しているようであった。




