異文化交流⑤
外交官。
彼らが普段何をしているのかというと、一言で言えば人脈作り。二言目を付け加えるなら、各地へ赴き人と会う事。会って、話をして、「互いに理解を深める」のがお仕事なのだ。
そんな彼らの仕事は知らない人間からしてみれば遊んでいるように見え、非常に叩かれやすい物でもある。
しかし、そういった積み重ねがいないと、どんな利益のある話でも相手にされない。「利益があるなら私情を殺してでも付き合うのが商売人」と、そんな言葉もあるが、人間はやはり感情で動く生き物なのだ。
その外交官の評価の一つに、外見があるのは間違いない。
見目麗しい人間と言葉を濁せばそうでない人間との間では、やはり扱いに差が出る。人間は美しいと思うモノが好きなのだ。
これには服飾も含まれ、例えば高級な服で応対するのは「貴方に敬意を」という意思表示になるし、普段着で会えば「仕事とは関係なく付き合いたい」ではなく「お前などこの程度で十分だ」と軽んじた事になる。
会社で「身だしなみを整えるのは当たり前。現場対応ならともかく、公式の場では最低5万円以上のスーツを着ろ」と言われるのはそういった事情がある。2万円の安売りスーツでは「相手を馬鹿にしている」わけだ。
正直、現場専門だった俺はそう言った話を教育の一環で聞かされはしたものの、あまり実践してこなかった。会話も含め、完全に交渉の素人である。
よって外交官が常設されるなら、俺の仕事はここで終わり。当初の想定とは外れるが、あとは専門家に任せるのがいいだろう。
今回の仕事のためにそこそこのお値段――500G、庶民が一月生きていける金額――を服に突っ込んだわけだがその服もこれでお役目御免と相成った。勿体無い。
そうやって設置されたヤマト側の外交官は、いくつかの商人と縁を結び、2つの遊びを商品として売り出した。
軍人将棋というか、ウォー・シミュレーション・ボード・ゲーム、長いのでWGとも言われる遊び。
あと、カードゲーム。TCGとシステムは同じだが、パック売りやトレード要素は排除したらしいカードバトルの遊び。
WGの販売方法は、ルールブックと駒、あとはマス目の書かれた布のシートだ。
ジオラマの上で駒を動かす古いタイプの物ではルールが複雑化しやすいので、HEXと言われる六角形のマス目の上で、ターンごとにユニットを動かすシステムを採用している。某ロボな大戦のように四角のマス目ではない。
射程と、攻撃力と、防御力と、移動力。それらの基本能力に加え、あとは駒ごとに一つだけの特殊能力。それらを駆使して相手の王を取る、相手を全滅させる、目的地にたどり着くなどの勝利目標を得るようになっている。
基本のルールは存在するが、ハウスルールなどもいくつか提案されており、採用するかどうかはプレイヤーに一任されている。
受け入れられやすいように簡略化したシステムだと思うが、よくできていると思った。
版画技術が普及していたこともあり、TCGは安価にできる――訳も無く、カード一枚当たりの単価が高いため、基本ばら売りのカードゲームを作ってきた。
こちらはルールが複雑なのに加え、某魔法をギャザリングなTCGや怪物をコレクションした奴とか、美少女で戦う奴と比べて、イラストが貧弱という弱点を持つ。版画の限界という訳だ。
複雑で分かりにくいルール以上にイラストの貧弱さ、これは痛い。コレクション性が薄く、ついでにカードの耐久性の問題もあり、売れ筋になるとは思えない。始めた時は本気かと、正気を疑ったほどだ。
モンスターの名前などはこちらの世界に存在するモノを普通に使い、それらを学べる作りにして普及しやすい様に配慮しているが、それでも厳しいものは厳しい。
初期生産はあちらで済ませてきたようだが、今後はグランフィストでの生産も視野に入れているという。この外交官はそれらが売れると、信じて疑わない強気の姿勢である。
最近は好景気なので庶民でも1Gや2Gの支出ならあまり気にならない雰囲気となりつつあるが、娯楽方面にそこまで金をつぎ込めるのかという疑念はある。
もともとこの世界にはリバーシやジェンガのような遊びが存在するため、それらで大儲けする小説のような展開にはならないと思うのだけど。
俺は元技術者であって、営業じゃあない。管理でもなければ総務でもない。当たり前だが商人でもなく、今は冒険者の、ただの一般人だ。
だからそんな俺には見えていない、彼らにしか見えない景色があるのかね?