異文化交流④
交渉2回目。
前回から1週間ほど時間を置いての対面である。
場所は前回と同じく、日本人村。集まった面子も同じだ。
日本人側は、互いの話を平行線にさせる事で問題を長期化させることを狙っている。
時間を稼ぎ、その間にダンジョンをクリアすれば逃げ切れるという事だろう。なので、俺に対して強気にも弱気にも出ず、のらりくらりと要求を聞かない作戦に出た。
「我々は民主的ですから。下の意見をまとめるのにも苦労しているのですよ。
この手のお話には時間がかかる。ご理解いただけませんか?」
そう言って馬を誤魔化すのは相川ではなく、専門家らしき若い男性。
この世界に来た時に日本での体ではなくこちらの世界で用意された体を使っているので、中身の年齢は分からない。口調からは分からないが、もしかしたら爺さんなのかもしれないな。
「でしょうね。ですから、今回の交渉とは別に、新しい提案をしたいと思います」
予想された展開の一つなので、俺からも予定通りの答えを返す。
「互いに、常駐の外交官を置きませんか?」
今回の交渉は、戦争回避が主な目的だ。ついでに言えば、規模は小さくとも国家間交渉の側面も持つ。
ならば外交官という発想はそこまで間違った物ではない。俺もこの話は基本的に賛成である。
外交官を置くとなると、身の回りの世話役というのが必要になる。
そうなると規模は100人は多すぎだが20人ぐらいの集団を最低ラインとし、50人未満が最大ラインと予想される。
彼らは現地での生活のため、グランフィストの者たちと交流を持つことになるだろう。それは互いの壁を取り除く、小さくない穴をあける事だろう。
逆にこちらからも同数を送り込むことで同様の効果がみられ、最終的には融和の目も見えてくる。
問題は、この手の壁は時折、とてもこじれる事だ。
嫌な話だが、「民族浄化」などと言う言葉で済ませることがあるのも、その証明だろう。民族対立とも捉えられるこの問題は、地球であっても得てして解決策など無い事が多い。
俺たちがこの世界に来てまだ2年程度だから、そこまで根が深くないと信じたい。
そうなる前に手を打てたのかそれとも手遅れなのかは、まだ分からない。
ただ手をこまねいているよりはマシだろうけど、たまに手を出したことでより問題がこじれることがあるからな。ハリネズミのジレンマじゃないけど、近付いたことで発覚する問題があるのもよくある落とし穴なのだ。
外交官の話は日本人側も前向きな姿勢を見せ、外交官とその他派遣人員の人選に入ると言ってもらえた。
そこまで速い対応を見せるのは序盤の「民主的だから意思決定に時間がかかる」というのと矛盾するような気もしたが、この場でそれは指摘しない。ありがたいと言えばありがたい話なので、そのまま受け取っておく。多分、事前にあちらも同じことを考えていただけだろう。
細かい話はまた今度という事で、2回目の交渉は終わった。
事前の打ち合わせから大きく予想が外れていないし、ちょっとだけど進展があったので今回の交渉は成功だったと思っておこう。
「ヤマト村」
ついでに、いつまでも村に名前が無いのは不便という事で、この村の名前を教えてもらった。
今更かよとツッコまれそうな話だが、そんな事すら話題にならないほどこれまでが没交渉だったのだ。こっちも日本人村とか、勝手に言っていたので大きい事は言えない。
ヤマトという命名は、大和からである。戦艦好きも加わりこうなったらしい。
東京や京都、そういった地名よりは使い勝手がいいというのも命名の理由となる。そっち方面で名前を付けた場合、仲間割れが起きるので苦肉の策だったようだ。話してくれた人は苦笑していたよ。
村の名前というお土産も貰い、俺は上機嫌でグランフィストに戻るのだった。