異文化交流③
「そんな話を、受ける訳が無いだろう」
「ええー」
ジャニスさんと協議した結果、俺は日本人と交流を持つことにした。
で、その手土産というか、話をしに行く理由として「グランフィストと日本人の仲介者」という立場を貰った。
俺が完全にグランフィスト側の人間として動くわけだが、そうじゃないとその後の話もし難いし、それでちょうどいいと思っておく。
それで、グランフィスト側としては日本人を正式に受け入れる事を通達するわけだ。
これまで日本人はグランフィスト近郊に自分たちの村を作り、そこで自給自足の生活をしてきた。グランフィストから一切の支援を受けずに、だ。
言うなれば彼らは自身の力で村を開拓した、独立国家のような立場にあると思っている。
しかし、これをグランフィスト側が認める事など無い。
なぜなら、グランフィスト近郊に村を作ったからだ。
グランフィストの近くに村を作った理由は、言うまでも無くダンジョンの為だ。ダンジョンに行くことを命じられ、そこにしか希望が無いというのに、ダンジョンから遠く離れた場所に村を作る理由など無い。
これをグランフィストは黙認してきたわけだが、結局その土地は彼らの物ではない。当然のようにそこはグランフィストの土地である。
黙認してきたのであって、今でも彼らのいる場所は彼らの物になった訳ではない。
グランフィストとしては当然土地の利用料を請求する権利を持つし、領主として彼らを従える義務がある。
そう、義務なのだ。
領主として領内に別勢力の土地など作ってはいけないし、存在を認めてはいけない。
これまでは黙認してきたが、これから先まで黙認し続けることなどできない。それをしたらロクに領地を治められない無能として領主失格なのである。
だから日本人村を支配下に置こうとするのはグランフィスト領主としては当たり前の、常識的行動となる。
もっとも、日本人村がこの話を呑むとは最初から誰も考えていない。
彼らにしてみれば自分たちの力だけで切り拓いた村であり、その自負があるだけにグランフィストに組み込まれることをよしとしないだろう。
そもそも、彼らが村を切り拓いた理由はグランフィストから追い出されたからである。追い出されて飢えに耐え必死に生き延びたら、今度は金を出せと言われたようなものだ。素直に頷く奴がいたら、そいつは相当なお人好しだろう。もしくは感情の無い機械か何かだ。
断られるのは前提条件である。
「これまでの利用については問いません。土地の利用料、それさえ払えば相川さんを代官と認め、変わらぬ生活を約束できますが?
そもそも、理性だけで考えればこちらの方が大きく譲歩しているのですよ。
仮にですが、この村に1000人もの異邦人が突然現れたとして、貴方方は受け入れられますか? 村の中に自分たちの場所と称して家を持ち始めても、それを見逃しますか?
いえ、土地の利用料だけで済ませている事も大きな譲歩なのですよ。普通であれば水の利用料、下流への補償金も負担していただくのが筋ですから。他にも道路関連の整備費用や商業関連の各種許可も必要ですが、すべて見逃しています。それらの譲歩に対し、なんの感謝も無いというのは悲しいですね」
とりあえず、こちらの主張すべき点だけははっきりさせておく。
法的な話だけなら、それがグランフィストの物ではなく日本の法であっても問題なく「こちらが正義」である。だから俺たちは正しい。そこは間違っていない。
単純に、切り捨てられる弱者の感情を完全に無視しているだけだ。
領主として、法に従う者として正しいだけなのである。
もう一つ付け加えるなら、グランフィスト側に情が無かったわけではない。
一番正しい解決策は「日本人の皆殺し」だったのだから。
レベル関連の危険性を考慮すれば、低レベルのうちに殲滅するのが正解だったのだ。そこを中途半端に温情を与え、今日まで生きさせてきたのがグランフィストの領主だ。神の言葉という後ろ盾があったが、皆殺しにする為のやりようはいくらでもあった。ただ、それを選ばなかったという話である。
その結果が戦争になるという予言・預言につながるのは悲しく皮肉な限りだがな。
この日は結局、何の結論も出ないまま帰る事になった。
感情論相手に、法の秩序は無力である。何の説得力も無い。
だから相手の理性を引き出すべく、時間をかけてゆっくり考えさせる。
その為に最初は拒絶されるのも厭わず正面からぶつかるしかない。奇策の類は使わない方がいい。
互いの情報をすり合わせ、妥協点の探り合いを始めよう。