装備更新、生産活動
ダンジョンに潜らない日のうち半分は、装備のメンテと更新が主な仕事だ。
「お。新しい素材で装備を作ったのか」
「はい! 布鎧の可能性を調べている所です!!」
イーリスは『魔毛織り職人』という、獣系モンスター素材を使って布を作る生産ジョブを持っている。
残念ながら3層までのモンスターに獣系モンスターはいないので、彼女は水属性のダンジョン4層にいる獣系モンスターの素材を買い取ってからの生産になる。
細かいことを言えば、1層のハーピィの羽毛から糸を作る事ができるのだが、モンスターとしてランクの低いハーピィの羽毛を使ってまで普段使いする装備を作る気にはならない。水属性モンスターからの装備だけに風属性ダンジョンの『天空宮殿』でどこまで有効かは分からないが、それでも1層モンスターよりはマシという話である。
毛皮をそのままマントに加工する選択肢もあるが、それは革細工の領分である。『機織り職人』系のジョブでは必ず糸から布というプロセスが必要になるのだ。
イーリスが造っているのは鎧下と言われる、金属鎧の下に着る、一番大事な防具である。
俺を始めとした騎士系ジョブは全身ではないが金属鎧を装備するけど、それだけで敵の攻撃を防いでいるわけではない。打撃を受けた場合、その下に着る鎧下が無ければ金属鎧でも衝撃を逃がす事ができず、結局はあまり意味が無いのだ。
また、敵の中には急所狙い、鎧の無い部分を狙ってくるものもいて、そういった時に最後の砦となるのも鎧下である。
たかが布の鎧、などと侮る事は出来ない。それが鎧下なのだ。
どうでもいい話であるが、鎧の下に身に付けるのだから下はスカートではなくズボンだ。そして全体的に肌の露出をかなり抑えている。
下半身が何故かスカートの装備など、ビキニアーマーと同類のネタ装備でしかない。そんな装備を作って着るような奴は(コス)プレイヤーぐらいしかいない。あと、フィクションの世界だな。
「今日はギルマスの分、ありませんですのー」
「いや、普通の飯を出してくれよ」
ララは、こちらに来てから『料理人』として手伝いに借り出される事が多い。
ダンジョンに行く日は俺の分のMP回復料理を作る事が多かったが、その他の日は他のクランのパーティに頼まれ能力値アップ料理を作っている。MP以外だとAGIとVITに対応できるので、そのどちらかをリクエストされる。
こういった能力値アップ料理は1日に何度も作れる物ではなく、レベルによる回数制限が課せられている。無限に作れるとゲームバランスが崩壊するのだ。
ちなみに、食べる側も複数の能力値アップ料理を食べる事は出来ない。
「すみません、マスター。作業中ですので手が離せません」
「いいよ。そのまま続けて」
桜花は装備と言っても携行品、回復アイテムの用意をしている事が多い。
『高品質な治癒の薬』などは消耗品だけにいくつあっても良く、むしろたまに他のクランに融通を頼まれるほど需要がある。
桜花は≪量産≫スキルのレベルが高くないので、1時間かけても2つしか作る事ができない。30分で1本ではなく1時間で2本というのがミソだ。作業中は手を離せない事もあり、桜花は俺に部屋から出て行ってほしいといった雰囲気であった。
ちなみに他の『薬剤師』も似たり寄ったりである。戦闘系のジョブでない事もあり、何気に桜花はトップクラスの薬剤師だったりする。
だからこそヒーラーの『神官』はちやほやされるのだが。俺にしてみれば出来れば変えたい現状でしかない。
生産方面に能力値を伸ばしておけば、何気にレベル2の『錬金術師』でも飯を食っていける程度に仕事があると知ったのはわりと最近の事である。
俺はあんまり『治癒の薬』と作ってなかったから勘違いしていた。昔、低レベルでは『錬金術師』で食っていけないというのは誤りだったのだ。
「レッド? 珍しいな。どうしたんだ? 俺に何か用か?」
「今日は休日でね。散歩の最中だよ」
ギルドハウス内の畑に足を延ばせば、ゴラオンが薬草の品質チェックをしていた。
『治癒の薬』の材料になるから薬草と呼んでいるけど、単独では毒草にしかならない草を育てているのだ。
薬草栽培は『農家』のジョブ持ちなど専門家だけが育てる事のできる仕事なので、ゴラオンも暇を見つけてはここに来るようにしていた。
ジョブ持ちだからかそれともこういう性格だからジョブ持ちになったのか、ゴラオンは植物を育てるのが好きなようだ。俺は毎日害虫駆除や雑草を抜いたり、葉の状態から薬草の健康状態を見極めるなど、そんなスキルはリアルもジョブのも持ち合わせが無いので、簡単にできるとは思っていない。俺のやる事はその成果を受け取り、感謝するだけである。
俺の本は装備品であまり使い減りしないので、予備1冊で事足りるし、更新するのは『筆者』レベルが上がってからだ。
つまり、当分やる事が無い。
みんな頑張るよね。
そして仕事が無い俺は邪魔者だよね。
外に行く気にもならない日。
俺は身の置き場が無かったりする、休日の父親気分を味わった。




