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北極星の竜召喚士  作者: 猫の人
冒険者レッド=スミス
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幕間:グランフィストの主婦たち

「あら、タチアナの奥様。今日はどちらへ?」

「ポーリィの奥様、ごきげんよう。今日は観劇へ参りますのよ……って、むず痒いねぇ、この喋り方」

「おや、やめちまうのかい?」

「ああ。時間ができたからってお貴族様の喋りを真似するのは痛いだけさ」


 グランフィストのとある建物。そこに集まった主婦たちは知り合いと集まり、世間話に花を咲かせていた。

 彼女たちがいるのは公衆洗濯屋。ほんの僅かなお金で洗濯を請け負う、最近できたばかりの店である。



 一般的な主婦の生活において、洗濯はかなり大きな負担である。

 水汲みなどの肉体的な負担もそうだが、長時間の手洗いで時間を大きく削られるのが主婦を疲れさせる。同じ体勢で腕の力を使うため、体を壊す要因にもなる。

 近代以前の洗濯とは、主婦たちにとって一番嫌な仕事だったのだ。おかげで洗濯屋は主婦たちに人気である。



 洗濯機の使い方が簡単なのも流行る理由だ。


 主婦は洗濯物の入ったカゴから洗濯物を洗濯機へと入れる。

 洗濯機に蓋をして、コインを入れ、盗み防止用の割符を抜き取るとあとは勝手に洗濯をしてくれるようになっている。

 洗濯が終われば割符を差し込み直して蓋を開け、洗濯ものをカゴに戻し持ち帰ればいい。

 ある程度の脱水もやってあるので重量はそこまで増加していない。手順は簡単で負担は少なめだ。



「おや、時間みたいだね」

「汚れは落ちたのかい?」

「……ま、このくらいなら後は手洗いでも構わないさ。ちょっと行ってくるよ」


 ただ、この洗濯屋の全自動洗いはそこまで性能が良くない。石鹸が高価な事もあり、日本の洗濯機のような「油汚れもすっきり真っ白」とはいかないのが現実だ。

 それでも主婦が自分でやるよりは洗濯機の纏め洗いの方が楽だし、後で僅かな手洗いを追加すれば済む話である。お金を払う価値は十分にあった。


 洗濯屋には最後の手洗いをする為のスペースも設置されており、洗濯屋の客ならそこに行けば用意された水で洗濯ができた。





 洗濯屋ができた事で、主婦たちには二つの選択肢が与えられた。

 洗濯が終わるまでの余った時間を何に使うかという選択肢である。


 一つは観劇や軽食といった休暇。これはお金に余裕がある家の選択肢だ。

 もう一つは内職である。こちらは洗濯の時間でその費用よりも多くの金を得られる、そんな時間の使い方である。

 どちらも洗濯屋の傍に専用の建物がある。


 庶民はほとんどの場合は後者を選ぶが、何度も内職をやれば前者を選ぶ余裕も出てくる。自分の稼いだお金である事だし、主婦たちは旦那に内緒でこっそりとこういったサービスを楽しむ事ができた。

 たまには贅沢を、というのは日本でもグランフィストでも主婦のささやかな幸せであり、特権である。これには旦那もあまり強く言えない。



 そして主婦にとって大変なもう一つのお仕事、子育ての支援も行われる事でその特権は確たるものとなる。

 託児所が設けられ、半日近く子供を預けて置けるようになったのだ。


 託児所では幼い子供を中心に多くの子供が集められ、一括管理されている。

 日本ほどうるさくないので、悪さをした子供には漏れなく拳骨や木刀の一撃が与えられることもあり、子供たちは大人に従うようになっている。ちびっこは基本動物みたいなものなので、強い人間にい違うのだ。

 基本的には食事無しなのだが、オヤツや軽食などを与えられる事もあるので、子供たちは大人しくしているとも言う。要は餌付けであった。


 働ける・家事の手伝いができる子供はともかく、まだそういった事ができない子供の面倒を見るのは大変だ。それを支援する施設は主婦にとって何よりも心強い味方だろう。





「さすがは領主様よねぇ」

「いい時代になったもの。姑はハンカチを噛んで悔しがっていたわ」

「あら、勿体無い」



 これらの変化は時間をお金で買い、もっと多くのお金を得る流れを作っていく。


 グランフィストの庶民たちは生活を大きく変えていく事になる。

 それをもたらした切っ掛けとなる人物の名前を知らないままに、ただ領主の功績だけが広まっていく。

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