新顔育成中
結局、何も変わっていない。
日本にいた頃、俺は自分の仕事にやりがいを感じていたけど、そこまでやりたい事をやっているわけではなかった。才能と努力が足りなかったけど、スポーツ選手になりたかった時期があった。
アニメやゲームは楽しかったけど、そこまで深くハマっていたわけじゃなかった。月に1万か2万ほど課金をしていたが、そこまで珍しい事じゃないと思う。ガチ課金、廃課金は桁がもう一つ上だからな。
飯もそこまで拘りが無い。確かに日本にいたころに比べれば質素な食生活だけど、あっちでも会社の社員食堂は不味かったし、インスタントラーメンとかをよく食っていたからな。外食はわりと美味い物を食っていたけど、この世界でも金さえかければもっと美味い物が食えたりする。調味料の種類が少ないとか、そこまで気にならない。俺が舌馬鹿という可能性を否定しないが。
仕事仲間はこっちにもいるし、人間関係は基本的に良好だ。
一番の不満は家族に会えない事、連絡が出来ない事だろう。
それと、冒険者という命の危険を感じる世界にいる事。今となっては車の運転程度のリスクしか背負ってないと思っているけどね。
日本に帰りたいかと聞かれると、それほど帰りたいと思っていない自分がいる。
楽に、少ないリスクで帰れるなら帰る事を選ぶかもしれないけど。こっちで作った人間関係を振り切るだけの強さは無い。
こっちにいればこっちに残る事を選択するし、例えば今すぐ日本に送られたとして、日本からこっちに戻る方法があってもたぶんそれは選択されない。
結局俺はその場における現状維持を望み、変化のために努力することができない人間なのだと思う。
仕事を覚えるための努力とかはできるんだけどねー。
新しい世界に飛び込む勇気が無いと言った方がいいのかな? 放り込まれた世界で生きる事は頑張るんだから。
それからしばらくはパワーレベリングに勤しんだ。
新人並びに新ドラゴンパピーのレベルを上げて、戦力となるまで鍛えなければいけないからね。
そう言えばミレニアは新しい妖精を召喚できるようになったのだろうか?
俺たち召喚士系ジョブ持ちって、多様なモンスターを召喚できるようになっても結局は定番のモンスターを召喚するものだから、新顔の出番が少ないんだよなぁ。
「ピナ、撃て!」
俺のメイン狩場は3層だ。そこで新顔3頭をそのまま召喚して使うと簡単に殺されてしまうだろう。
なので、≪召喚≫して一撃だけ魔法などを使わせ、すぐに≪送還≫する事を繰り返している。イメージ的には最終幻想な召喚魔法のイメージだ。
それでもレベル差のおかげで経験値は入るから何の問題も無い。MP効率は悪いが、「いのちだいじに」だ。
他2頭はともかく『鎧竜』のレヴィアだけ前衛だから、特に念入りにVITとHPを伸ばさないとね。あとMNDも。
この育成方法の問題は、新顔たちに精神的な負担を強いる事だ。
僅かな時間だけ呼び出されてすぐに戻されるというのはあまり気分が良くない。その辺のケアが必要になる。
具体的には、非戦闘時に召喚して触れ合いの時間を作っている。
その時にレヴィア達からお願いされる「やってほしい事」の定番があった。
「~~♪」
移動中、俺はレヴィアの背に乗り移動をしている。
レヴィアのサイズはまだ大型犬程度だが、俺自身が小柄なので何とか騎乗することが可能だ。俺、≪騎乗≫スキルも持っているし。
何が楽しいのかは知らないが、レヴィアからは喜びの感情が伝わってくるので間違った方法ではないと思うのだが。彼女らからはこうやって乗って欲しいとおねだりされるのだ。レヴィア以外からも同じことをお願いされるので、ドラゴンパピーの種族的習性か何かなのかもしれない。
……なぜか、ティナやマリーからも乗るように言われるようになったが。
「……見た目が、見た目がっ!」
「うむ、癒されるな」
「絵に残したいですね」
「お前ら、集中しろ!」
「リーダー、声大きいっす」
「おまえもなー」
そして一緒にダンジョンに潜っている仲間からは微笑ましい物を見る目で見られるようになった。
小学生が大型犬にまたがっている絵は、確かに微笑ましいかもしれないけどさ。俺の見た目が小学生なのは横に置き、乗っているのはドラゴン(パピー)なんだけど? 微笑ましいか、これ?
これ以降、冒険者連中における俺の評判が劇的に変化していくのだが、それを俺が知る事は無かったという。