俺と相川②
「成程……。状況はよく分かった」
一通り説明が終わると、相川は苦虫を噛み潰したような顔をした。
それもそうだろう。プレイヤーがグランフィストを追い出される原因になった事件も、こういったごく一部の跳ねっかえりの起こしたものだったからだ。
「俺達はただの冒険者だ。説明には来たが、お前らをどうこうする意志や権利は無い。
ただ、これ以上の揉め事は御免だ。数が増えて管理が面倒なのは分かるが、下の連中を上手く押さえておけ」
こっちのリーダーは今回の件を許しているように見えるが、正しくは「次に何かあったら、またプレイヤーに責任を取らせるぞ」と脅しているのだ。
こうやって言い逃れできないようにするため、わざわざ正面から日本人村にやってきたわけだ。
それと、今回の事件を公にする事で相手のヘイトを高める事になる。
俺を囮にするわけだが、次はきっと近いうちにあるだろうと睨んでいる。
そしてその時は日本人村に兵を派遣することも可能になり、秘匿されている彼らの技術の一部を盗む事までするだろう。
「ああ、次などあってはならないからな。下の連中にはしっかり言い聞かせる。
だが、俺達は共同生活をする生まれが同じ集団であって、組織でも何でもない。言い聞かせる事は出来るが、命令は出来ない。
こうやって事情を聴く事はしたいと思うが、今後、同様の事件があっても基本的には現場の判断に任せたい」
だが、相手もさる者。こちらの意図をしっかり理解したうえで対応して見せる。
相川の言い分をまとめると「また何かあっても俺達は関係も責任も無いよ。でも何かあったら口は挟むよ」と言っている。それに一部の言葉は曖昧に濁しているので、応用範囲は広そうだ。
ずいぶん都合のいい話ではあるが、彼らが一つの組織というのはこっちの勝手な言い分だ。俺達にはその方が都合が良いからそう言っているというのは間違ってはいない。
ここまでは予想通り。
だから今回も逃がすはずが無いけどね。
「そうだね、今回みたいな事があればまた説明に来るさ。プレイヤーの代表者さん」
「……では、話はここまでだな。お客人、早々に帰ってくれ」
ここでこちらは相手を「プレイヤーの代表者」と表現した。
嫌がらせの様なやり口だが、ここですぐに返事をした場合はこちらの言い分を認める事になる。「お前がこの村の代表だろう? それぐらいは認めるよな?」という、俺達側の意見を。
村長的立ち位置の相川はすぐに返事をせず、こちらの言葉を無視して会話を打ち切る事にしたようだ。
その言葉に俺の仲間たちは席を立ち、最後に挨拶してから去っていく。
俺をこの場に残して。
「客人には帰るように言ったはずだが?」
「なに。同じ日本人同士、少し話でもしていこうと思ってね。もちろんオフレコだし、そのために仲間には先に戻ってもらった」
相手はこちらの言葉に同意しなかったが、明確な否定も返さなかった。よって判定はイーブンであり、都合のいいように解釈することが許されている。
もっとも、相手にしてもそれは同じで、互いに自分たちに都合のいい話をするというわけだ。
ただ、この流れはグランフィストの領主と事前に決めていた取り決めに従ったやり取りだ。領主側もこう言った結果を予測していたので、概ね推測通りに話が進んだだけである。
頭のいい奴らはなんでこんな展開を事前に予測できるんだろうね?
そんな疑問は残るが、俺個人はこの相川と少し話をしておきたかった。
俺達が偽者じゃないかという予測、そこから導き出される結論に興味があった。いや、自分だけで出せない答えを持っているのではないかと思って。
「俺も忙しい身だ。あまり時間は取れない」
「感謝するよ」
俺の雰囲気に何かを感じ取ったのか、面倒そうといった表情の相川は表情を引き締めた。
さて。彼はどんな答えを持っているかな?




