触れる肩と肩
その後の事は、あまり語れる事が無い。
ジョンは俺の情けない顔を見て説得不可能と思ったのだろう。「考えておいてくれ」と言い、この場を離れていった。
俺は今後の予測、確実に起こるであろう戦争が不正規戦、ゲリラやテロ活動になる事だけを告げ手おいたがどこまで分かってもらえるかは微妙だなと考えていた。
しばらくは動く気力が湧かず、思わず泣きそうになる。
こちらの世界で生きていくと決めていたが、日本への郷愁が無くなっているわけではない。未練はあるのだ。
だけど、あの予測を口にした時点でそれが叶わないと自分自身に付きつけてしまった。俺の望みは叶わないだろうと受け入れてしまった。
神とやらの力でどうにかなる問題かもしれないが、その手段などを考えれば選べるはずはない。
結局、俺はこの世界で生きていくことを選んでしまう。
自分の中にある願いとか矜持とか、誇りとか。それらが対立しまくって完全に納得できる選択肢でなかろうが、この世界を選んでしまう。
人間の心って奴は複雑怪奇だ。
しばらく一人でいると、桜花がやって来た。
俺の顔を見ると引き返し、温かい飲み物を用意してくる。
無言で俺の前に木製のコップを置き、隣に座る。ソファのように横に長い椅子だったのだが、肩が触れ合うほどその身を近くに寄せ、俺に体重を預ける。
俺も無言で出された飲み物を飲む。
少し熱めのお茶は体の芯を温め、僅かにかかる体重が、俺は今、ここにいるのだと実感させてくれる。
それが自分の中の迷いや情けない感情を鎮めてくれる。荒れていた心が次第に落ち着き、俺は冷静さを取り戻す。
結局は、これなのだ。
迷いがあろうと納得できない部分があろうと、向こうの俺は向こうの俺で手放せない大切な持っているモノがあり、こちらの俺はこちらの俺で桜花や仲間の事を手放せないと感じている。
なんのしがらみも無く生きていくなんてチート主人公でもない限りできないし、俺はそんな人間じゃない。誰かにいて欲しいと考えてしまう、ごく普通の人間なんだ。
気が抜けた、落ち着いた。
だからか、俺はいつのまにか寝ていて、次に気が付いたのはベッドの上だった。
一晩寝て、頭の中がすっきりしている。
そんなすっきりした頭は昨日までの悩みを無かった事にして、今日も目の前のあるお仕事をこなせばいいよと言っている。
飛行ユニット・ソラカナは持ち込まれたドラゴン素材で量産体制に入っている。
俺が主導してはいるけど、現物が見本として目の前にあるため、俺が深く関わらなくても大丈夫のようだ。動くところまで含めた調査により、人海戦術で一気に組み立てられていく。
俺一人では1月かかったソラカナも、マンパワーにより20機が10日もかけずに完成する見込みだ。
この世界、著作権とか知的財産保護の概念が無いわけじゃないけどね、自分が苦労して作った物がこうもあっさりコピーされると微妙な気分になるよ。
もしも有用な物を作ったとしても、あんまり表に出したくないな。
なお、ソラカナの改善は量産前に行われている。
1号機は何度も細かい改装を受けており、バージョンアップしている。
翼の形状や機体の形など、空を飛ぶに適した物へと変わっていった。
俺は流体力学とか航空力学を専門的に学んだわけではないので、初期型にはずいぶん多くの無駄があったのだ。
こちらの世界でも理解されている学問ではないが、職人さんは経験上の勘で何が良くて何が駄目なのかを判断することができたらしい。職人さんの「こうした方が上手くいく」は俺のなんちゃって知識チートを洗練することに成功した。
ソラカナの量産が済めば次は4層の本格的な攻略だ。
俺がそれに付き合わされるのかどうかは、よく分からない。




