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北極星の竜召喚士  作者: 猫の人
冒険者レッド=スミス
120/320

加治屋紅は死んだ?

「可能性は五分五分だと思っていますよ。帰れるだけなら、ですけど」


 俺はジョンの「日本に帰る事が出来るのか」という質問に、自分なりの予測を返す。


「たぶんも何も、この姿になった時点で今の俺と日本にいた俺は別人だと思っています。DNA、と言っても分かりませんよね。ここにいる俺が日本の親から生まれた俺が親からもらった身体じゃないのは見ての通りって言いたいだけですけど。

 だったら、戻って何の意味があるのかって話ですよ。

 日本で有名な……娯楽物語のパターンに「異世界転生」ってのがあるんですけど、そのお話みたいに向こうの俺たちが死んでこの世界に転生させられたって可能性も一応はあるんですけどね、たぶん違います。俺はいきなり10歳からスタート、他の人も赤ん坊からやり直しているわけではありませんし。かと言って異世界転移でもない。身体が違うんだから当然ですよね。

 だったらこの身体はどうやって用意されたんだ、とか。我が身になって考えると、嫌な事ばかりが思い浮かぶんです」


 ただ、この予測は相当キツい。完全な自己否定でもある。



「こっちに来た人の中には俺と仲良くなった、そんな人もいたわけですが」


 殺された友人、ケミストリーさんのことを思い出す。


「その人と俺と、日本にいた最後の記憶は時間的にほぼ誤差がありませんでした。住んでいた地域は全然違います。嫌な想像その1は、日本にいる俺たちがミサイルかなんかでまとめて死んだ可能性ですけど、たぶんこれは無い」


 北朝鮮のミサイルとかで俺が死んだとする。しかし俺は東京・大阪・名古屋のような大都市に住んでいたわけではないし、離れていた所に住んでいたケミストリーさんもほぼ同時刻に記憶が途切れている事を考えるとミサイル説は可能性は低いように思う。

 俺の地元が北朝鮮の攻撃目標になったとは考えにくいし、方向がかなり違うから途中で落ちたという事も無いだろう。ケミストリーさんも以下同文。そもそもタイミングが同じって言う段階で違うと言っていい。

 さすがに水爆だとしても300㎞離れた人間をまとめて殺すほどじゃないし。



「だとすると「日本にいる俺が死んでない」可能性が非常に高いと思う訳です。

 つまりこの場にいる俺は日本の俺、「加治屋(かじや) (くれない)」の偽者、コピー、人格データを与えられただけの、マガイモノなわけですよ」


 確定ではないですけどね、と俺は付け加える。

 だからこそ、俺は「レッド=スミス」を名乗りこの世界で生きていこうと思っているんだ。





 俺は一通り言いたいことを言うと、大きく息を吐き出した。


 これまでこの手の話を誰かとした事はほとんど無い。ケミストリーさんとは日本の話を少ししたけど、ここまで踏み込んではいない。

 今、ジョンに話したのが初めてと言っていいかもしれない。


 心の中にあった嫌なものを吐き出したことで背中が軽くなったと思うと同時に、嫌な想像が真実ではないかという疑念が言葉にされたことで明確な形となって圧し掛かる重圧を感じる。

 相反する感覚に疲れた俺は椅子の背もたれに身体を預け、ジョンを睨む。

 いつまでも言葉にしなくていいという話ではなかったが、実際に口にする、それを求めたジョンには恨み言の一つでも言ってやりたい。……八つ当たりでしかないのだが。



 見ればジョンも苦虫を噛み潰した表情をしており、何かを堪えるようだった。


「レッド君。君は僕が思ったよりも聡明で、強い人間だ。

 だから、その程度(・・・・)で済んでいるし、覚悟を決める事が出来ている」


 ジョンは俺に謝りもせず、自分の言いたいことを言う。謝る必要が無いのではなく、謝るべきでないと思っているのだろう。


「しかし、彼らプレイヤーにその強さを求める事が出来るのか。絶望した彼らの行動はどんなものか。

 僕らは、最悪を想定して動いている」


 貴族って奴は、統治者であり支配階級だ。

 領地のためにかなり先を見据え、その予測の中でも悪い芽を摘むように動きたいのだろう。バランはともかく、家名持ちのミスター・スミスは強い責任感と高い能力を持っているんだろうね。こっちのスミスさんはポンコツではないけど日々の生活だけで必死だっていうのに。


 だからと言って、その強さを俺にまで求めないでくれ。

 俺はそこまで聡明でも理性的でもないし、重い責任とか嫌な事から逃げる普通の人間なんだ。


「プレイヤーと僕らは戦争になる。ほぼ間違いなく。

 だからレッド君。君の力を、貸して欲しい」


 俺に頭を下げるジョン。

 その姿は真摯なもので、とても尊いのだろうけど。


 だけど、「だけど」なんだよ。



「すみませんけど、俺の手に余るお話です。

 日本人はここだけじゃない。他の都市から燻っている奴でも引っ張って、そいつに任せるのは無理ですか?」


 だけど、この件は俺の手に余る。

 怖くてとても引き受ける事が出来なかった。

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