斜め上
パーティ内の意見は「冒険者は続けるべき」「でも探索速度はゆっくりで」という形で統一された。
新人であるララを考えればそれが当然と周囲には言えるので、大きな問題起こらないだろうと予測された。
しかし、である。
そんな決定に納得いかない外部の御仁がいるのも確かな事なのだ。
「レッド君。新人がいるからゆっくりと先に進む。それは分かるんだ。
しかしだね、2層程度に時間をかけすぎじゃないかい?」
「いえいえ、俺たちは5人だけのクランみたいなものですから。先行パーティを作る事も出来ない訳ですよ」
「問題はそこか……。メンバーは増やさないのかい? 仲間の状況に応じてメンバー入れ替えが出来ないと、この先キツイよ。固定メンバーだけに拘るのは、何か理由があるのかい?」
「……なんとなく? 惰性?」
『破魔の剣』のジョンと話をしていたが、彼にしてみればメンバーとは流動するもののようだ。常に同じメンバーとは限らないという。
俺も他のクランメンバーを1人入れつつの探索をしているので似た様なものかもしれないが、それとはまたニュアンスが違う。
まぁ、よくよく考えれば常に同じメンバーに固定するのは利よりも害が大きいわけだが。
誰だって体調が常に良いとは限らないので、調子の悪いメンバーを外して調子のよいメンバーを集めるとか、状況に応じてメンバーを入れ替えるとか、メンバー入れ替えにより休暇を与えるとか。そういった手段が採れるようになる。
メンバー固定のメリットは連携の習熟速度やパーティメンバー選択時のもめ事回避ぐらいである。後は少人数ゆえの小回りか。捨ててしまっても構わないメリットとは言い切れないが、大人数のメリットと比べてしまうとちょっと劣るというか、選べないというか。
でも、クラン拡張は大きな問題がある。
「クランメンバーって、そんなに簡単に増やしていいのか? 俺が構わなくとも、領主側は気にする気もするんだけど」
「それは今更さ。僕らや他のクランメンバーのジョブ解放をした段階で建前になっている事に気が付いていなかったのかい? 問題があるなら監視員でも置いているし、もっと細かく口を出していたさ。
全く気にしなくていいとまでは言わないが、考えたうえでのメンバー確保ぐらいは許される。それぐらいは断言しておこう」
「信用できない人をジョブ解放するのって、怖い事だと思うんだけどな」
「それを言ったら何もできなくなるよ。僕らにできる事は、手探りだろうと前に進むことだけさ」
やっていいのかよ!?
結構気にしていたからメンバー募集は出来るだけしないようにしていたのに!
もし許されるなら、格闘家とか前衛メンバーの追加ができるじゃないか!
と、そこまで話していて気が付いたが、メンバーを増やしたら余計に攻略速度が遅くならないか?
新人は育てるのが手間だぞ。
ララの件だってあるし、2ヶ月3ヶ月後の3層到達も難しくなるんじゃないか?
そう思っていたら、ジョンのところで新人研修をやってくれると言いだした。どうしても俺を4層到達まで推し進めたいらしい。
正直、お飾りのギルドマスターにそこまで求めるのかと言いたくなり、思わず本音を口にしてみると。
「これを言うかは迷っていたんだ。どちらかと言うと、レッド君には日本人のサンプルとしてグランフィスト防衛の手伝いをして欲しい、そう考えている。これは僕やバランに共通する意見だね。
日本人探索者、今はプレイヤーというんだったかな? 彼らに近い思考をする君の意見を知りたいんだ」
「え? ダンジョンじゃなくてグランフィスト防衛?」
「もしもプレイヤーと僕らが戦争になったらどう動く? 彼らはどんな手を打つ? 僕らが気にしているのはそこさ。彼らの考えが読めないのは、そうとう拙いんだ。
そこでレッド君には僕らの参謀としていて欲しい、そう思っている。
でも、レッド君のレベルが低いとどうなる? ダンジョン攻略の助けになる何かを兵器転用されたらどうなる? 僕らの想定外の手を、どうやって防げばいい?
君にはもっと深い層に潜り、レベル上げをしている事でしか見れない景色を見て、そこで得たものを僕らに伝えてほしい」
「ちょっと待って、ちょっと待って!!」
何やら壮大な話を聞かされた。
こっちの方が予想外だよ!
つまりあれか?
いつか起こるだろう対プレイヤー戦に俺を巻き込むためにこんな事をしてるって言うのか?
さすがにそれは許容範囲外だ!
絶対に無理!!
産業革命とか調子に乗って色々とやらかした自覚はあるし、グランフィストに愛着はあるけど、人間相手の戦争に兵士や参謀として参加するなんて冗談じゃない!!
戦争参加なんて嫌だと混乱する俺。
だが、思考がまとまらず慌てる俺にさらなる冷や水が浴びせられる。
「そもそも連中の大半、主力級は日本に帰る事を目的としているんだ! 戦争になる前に消えてなくなるだろ!」
「本当に?」
「え?」
「君は本当に、彼らが日本に帰れると思っているのかな?」