ダンジョン4層
俺たちが時間をかけてゆっくりと先に進んでいる間に、とうとう2大クランが下層“だった”場所のボスを倒した。
今回の勝負は『夜明けの光』のバランさんの勝ちで、『破魔の剣』からは盛大なうめき声が上がる事となった。ダンジョンはパラレルワールドみたいなものなのでどちらもボスを倒しているのだが、バランさんの方が半日近く早く帰ってきたので『夜明けの光』の勝ちだと宣言した。
これにより胴元である俺はこれにより少なくない資金を得たが、それは些細な話となった。
俺たちは、ダンジョンにはまだまだ先があると知ったのだった。
「まさか、空中庭園が終わりじゃなかったとはねー」
「そうなると元下層の次が終わりって思えないから不思議ですの。ギルマスはどうお考えですの?」
「元下層が適正レベル15ぐらいとして、次がレベル20だとして、レベル25でもう一層あっても不思議は無いかな? さすがにレベル30でさらにもう一つは考えたくないなぁ」
「レベル30って……」
「うん。人間の上限だよ」
周囲の話はダンジョンの“その先”の話ばかりだ。
特に俺はダンジョン攻略を神様から言われているクチなので、その先の有無をちょっと気にしてしまう。
食堂で仲間たちとそんな話をしていると、ざわり、と周囲のざわめきが大きくなった。
「ギルドマスター! 話がある!」
「騒がせてすみません。少しお話をする時間を頂けないでしょうか?」
ジョンさんとバランさん。
2人のクランマスターが仲間と共に俺のところに来たのだった。
どちらも大柄の筋肉男なので、二人に腕を掴まれ引っ張られると地面に足が付かない。
俺はグレイスタイルで回収されるのだった。
俺たちは防諜対策の取られた会議室にやってきた。
「マスターにお聞きしたいのは、ダンジョンの次の層に関する事なのです。
ここまでのダンジョンは『地下通路』『庭園』『宮殿』でした。そして次にたどり着いたのが『浮遊島』だったのです」
浮遊島と言われても最初はどんなものなのかよく分からなかったが、半径200~500mの岩の塊がたくさん浮かんでいて、そこにロープなどを張っては先に進む仕様らしい。ラ○ュタ?
もちろんダンジョンなのだからモンスターもいる。空中を移動する間に襲われるのが最悪で、そこで死んだら死体も残らない。地上は見えるのだが、高度10㎞以上だというのが彼らの推測だ。
高度10㎞なら空気が薄くないのかとか、寒くないのかと聞いてみればそんな事は無いらしい。ダンジョン仕様というかファンタジー仕様と言うか。そこはご都合主義が働いている。高山病はこの世界でも確認されているし、北の方にある高い山には常に雪が残っているので寒いことも分かっている。ただ、みんなダンジョンだからとその不思議に蓋をしている。俺もこれ以上は気にしないでおくのがいいかな?
「浮遊島の移動に、何かいい方法は無いものかと思いまして。異世界人であるマスターの発想に頼らせてもらえないでしょうか?」
ジョンさんから説明を受け、周囲のメンバーから補足をされ、なんとなく状況が掴めてくる。
最前線を戦ってきたジョンさんらでも、全く未知の状況で戦ってきたわけではない。先人が遺した情報を使い、戦ってきたのだ。事前準備が万端な道の上を走ってきたわけだ。今までもボスの撃破という前人未到の戦いをしてきたとはいえ、失敗の経験を積んだうえでの挑戦でしかない。
それが未知の道を開拓する段階になって、どうすればいいのかと頭を悩ませるようになる。ゼロスタートは本当に手さぐりで挑むしかないのだから。
そこで俺の出番という話になったのは、それなりに不思議な話ではある。俺は異世界人で色々とここの連中とズレているとはいえ、ダンジョン初心者に毛が生えた様なもの。中堅に足を踏み入れた程度の存在でしかない。
「いえ、創作の話でしょうが、この世界のような場所を色々と知っているのでしょう? でしたらこういった時の攻略法なども何か心当たりが無いかと思いまして」
「こちとら雲を掴めそうな場所で戦うなんて考えたこともねぇンだよ。情けねぇが何かとっかかりでも無いもんかと思ってよ」
とは言ってもな。
俺ならドラゴンたちに運んでもらう事を選択するだけだし、他は遠距離戦主体でいけばいいんじゃないか? 特別な事など、何も思いつかない。
さすがに戦闘機を今から作るなんて選択肢は無いしねー。造れそうな気球だってモンスターがたくさんいるところでは駄目だろうさ。




