レイカン
「で、昨日からそこにいるはずのない人間が見えるようになったってわけね。ん〜、にわかには信じられない事だよね。まあ、でも人って死んだら意識を失う訳じゃない? それから先、生まれ変わったり天国に行ったり色々諸説あるけれど、誰にも真相はわからない。だから......」
「だから?」
「死んだら幽霊になるって言う可能性もないことはないよね?」
「..............!? おい、西野! それだと、結局俺の話を信じてないって事じゃないか!?」
「えへへ、そうでもないよ。今のは自分自信に確認したかっただけ! 確かに一馬君の突拍子もないカミングアウトに多少は腰も浮いたし、無視して帰ろうとも思ったけど。私もいると思うよ、幽霊」
「本当にそう思ってる? なんだか面白可笑しく遊ばれてるような気がしてならないんだが......」
「大丈夫、大丈夫! それで、何か解決策を探してるって訳ね? 私でよければ力になるよ」
「さすが西野! でも部活は大丈夫なのか?」
「一馬君、何言ってるの? 親しい友人からの大事な相談を受けない訳がないでしょ? ましてや一馬君の相談なら......」
「え? なんか言った?」
「うんん! なんでもないよ! で、幽霊から何かされたりしたの?」
放課後。誰もいない教室。
一馬は、前の席の西野に昨日から見えるようになった幽霊について相談していた。
「いいや、特に危害は加えられてないよ。でも、なんつーか見えるようになったことで精神的にきてる。今は大丈夫なんだけど、家の中や学校に来る途中、ましてや学校内にも沢山いるんだ。普通の人間となんら変わらない格好で歩いてたり、無感情に一点を見つめて横断歩道の真ん中で立ち止まってたり」
西野は驚いた表情を浮かべる。
「へぇー、幽霊って言っても生きている頃となんら変わらないんだね。もっとこうおどろおどろしいのを想像してた。でも、やっぱりこの世に留まってるってことは、まだ何かしらの未練があるってことじゃない? その幽霊さん達もその未練を果たせそうな状況下になればもっと意気揚々と襲ってきたりするのかな?」
「いや、なんだかそう言う感じじゃなかったんだよな。多分あれは自分が死んだ事に気付いてない奴が多いんだと思う。普通に人混みに紛れて歩いてると思ったら、ぼーっとして急に壁をすり抜けて反対の道に出たりしてたよ。本人は壁をすり抜けたなんて気づいてないみたいだった」
「そうなんだあ。でも、これは言っちゃダメなのかもだけど、それってちょっと悲しいよね。私ならこの世に未練を残さずに死んで、普通に成仏したいなあ」
「おいおい、西野。俺が話してたのは、突然死が訪れてそれに気付きもしないでこの世に残っちゃった霊の話だぜ? 誰でも突然死んだらこの世に未練が残るに決まってる」
「あ、それもそうだね。死は突然訪れるものだもんね。んー、仮に私が明日死んだとしたら、未練たらたらでこの世に残っちゃいそう」
「俺もそうだよ。てか、誰だってそうだと思うぜ。そして何より俺は、学級委員で成績優秀、それなのにスポーツ万能容姿端麗なお前の未練が何なのか知りたい!」
「一馬君、褒めても何も出ないよ。でも、そうだなあ。一番の未練はやっぱり好きな人に気持ちを伝えられてないってことかな」
「おお! すっげえ乙女ちっくだな。映画とかの話になりそうだ」
西野はみるみるうちに顔が赤くなった。
「もう、バカにしないでよね! 女の子にとって一番大事なことなんだから! でも、やっぱり私が幽霊になったら一目散に好きな人に会いにいくなあ」
「好きな人にかあ...でもそれってなんかストーカーみたいだよな。好きな人に気づかれもしないのにコソコソついて行ったりして」
「なんで? それでもよくない? それに、好きな人に霊感があれば話は別じゃない? その条件さえ揃えば、一生好きな人と入られるし話もできるわけだし」
「ええ? それはそうだけど、なんだかちょっと違う気がするよな......」
「なんで? どうしてわかってくれないの? 私の言ってる事が間違ってるの? ねえ? なんで?」
西野は物凄い形相で怒りをあらわにし、机をドンドン叩き始めた。
「ちょ、ちょっと待てよ西野。落ち着けよ。なんでそんなに怒るんだよ。俺の相談を聞いてもらえるんだろ? なあ!」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!」
なおも机をドンドン叩きながら、西野は叫び散らしていた。
その時......
ガラガラ
教室のドアが開き、野球部の練習着を着た少年が入ってきた。
「に、西野? どうしたんだよ? お前、今、誰と喋ってたんだ?」
少年は青い顔で西野を見ていた。
西野の後ろの席、昨日交通事故で亡くなった一条一馬の机には、花瓶に一輪の花が添えられていた。