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祓魔師と機巧師は夢魔を喰う  作者: あっきコタロウ


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13/13

最終話  祓魔師と機巧師はこれからも

「やっ……た」


 目がくらむほどの七色の光が収まって、ペルシャはその場にへたり込んだ。エリックも呆然とただ座り込んでいる。魔獣が消え、クリスを囲う障壁も溶ける。

 

 目の前の土の壁が消え去り、一面の焼け野原を目にして、クリスは気を失いそうになった。楽しくキャンプしていた森と同じ場所だとは思えない変わりざま。


「やったよ、クリス。もう君があいつに殺されることはない」


 隣から聞こえる前世の恋人の声がなければ、実際に気を失っていただろう。


「無事ですか!? どこか怪我は?」

「大丈夫。私たちの完全勝利だ」

「良かった……音しか聴こえなくて、何がどうなってるのかわからなくて。地面が揺れたりもするし。私、怖くて、とても心配で」


 胸の前で手を握りしめ、大粒の涙を流す。

 

「俺の戦闘力とエリックの魔術箱。この二つがあって、負けるわけないじゃんか」


 体内の魔力を大きく失って、いつもより力なくペルシャが笑う。


「ついに……私たちはやったんだな」

「スカっとしたろ?」

「ああ、かなりな」


 長年追っていた仇をついに討った。喜び、達成感、満足感、充足感。様々な感情が二人の心に湧き上がるが、とにかく今一番強いのは、疲労感。


「寝よう! いろいろと語らうのは後!」

「あー、すまん。テントが……」


 ペルシャの提案から目をそらすエリックが指すのは、新型魔術箱ニューパンドラの放出口。咄嗟にテントの支柱を使用した為、テントだったものは部品を失い、今やただの大きな布切れ一枚である。


「星空の下で開放的な睡眠というのも悪くないと思います」


 元気な二人に安心し、涙を拭ってクリスも笑顔を作る。


「良い案だ、乗った!」


 砂埃が舞うのも気にせず、ペルシャは硬い地面に倒れこんだ。クリスも続けて寝転がる。

 体を冷やすといけないから、と、ただの布きれをクリスにかけてやって、エリックも横になった。


「せっかくだから星座の話でもするか……と、思ったが」


 苦笑いするエリックの横では、ペルシャがもういびきをかきはじめていた。寝転がってから一分と経っていない。平気そうに見せても、やはり相当疲れていたようだ。


「聞きたいんれすけど、私ももう眠くて」


 蘇生術の疲れからまだ完全に回復しきっていないクリスも、横になった途端に緊張が解けたようで、ろれつもうまく回らないほどに眠そうにしている。


「すみません。お休みなさい」


 その言葉を最後に、すぐに寝息が聞こえ始める。


 エリックは一人星を見上げる。

 今日一番頑張ったのは間違いなくペルシャだ。今日だけと言わず、いつも体を張るのはペルシャだった。他人の夢の領域でエリックを守りながら夢魔を狩る。

 役に立たない自分を、それでも毎回連れて行くのは、自分の手で仇討ちをさせてやりたいと考えてくれたからだろう。


 そこまでを想像して、彼もまた、襲い来る睡魔に身を任せた。



 

 翌日。

 一晩寝てすっかり回復したクリスとペルシャが、歌い踊りながらキャンプの後片付けをする横で。


「どうしてお前達はそんなに元気なんだ……」


 抜け切らない疲労に、エリックは頭を悩ませている。メガホンを支えた腕が痛い。踏ん張った足も痛い。硬い床で眠って腰も痛い。


「魔力があるから回復が早いのか?」

「いや、若さのせいだろ」

「馬鹿な! 二つしか違わんじゃないか! 待て、なんだか頭痛までしはじめた……。普段はどうとも思わないが……こういう時は私にも魔力があればなと、切に思うよ……」


 その告白が耳に入り、クリスは振り返った。

 まとめ終わった荷物の横に膝をついて、改まる。


「あの、お願いがあるんです。何か思い出せるまでって条件でしたけど……私このまま、エリックさんのお屋敷においてもらえませんか! 私のせいで魔法が使えないエリックさんに、せめて何か償いがしたいんです。お役に立ちたいんです」


 そう頼んで下げたクリスの頭に、硬い何かが当たる。エリックの手から差し出されているそれは、オレンジ色の宝石が嵌めこまれた細いステッキだった。


「これは……?」

「魔力の暴走を抑える魔術機だ。私の屋敷で魔法を使うときは、必ずそれを通して行なうように」

「え? ということは……?」

「好きなだけ居ると良い。命を助けてもらった礼だ。私は君に感謝しているよ。負い目を感じる必要はない」


 冬が過ぎ、春の日差しで蕾が開くように。クリスの表情は満開の笑顔で彩られる。


「ありがとうございます!」

「それにねえクリス、俺からも提案があるよ。君の中の余分な魔術回路、全部エリックに移植しよう。そうすれば君も一般人、エリックも一般人。お互いハッピー。あるべきところに、あるべきものを戻すんだ」


 そしたらそんなダッサいステッキいらなくなるよ、と、ペルシャはうさんくさい商人のような顔をする。こちらの商品のほうがより魅力的ですよ? と続きそうだ。


「回路を、移植? そんなことが可能なんですか?」

「理論的にはね。でもそれには核がいる」


 ペルシャはお得意のニヤリ顔でエリックに向き直る。


「俺の両親とお前の腕の仇は討った。だけど、俺たちの夢魔狩りはまだ終わらねえ。これからもよろしくな、【相棒】!」


 そう言って、少し猫背な背中を力いっぱい叩いたのだった。


 END.

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