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お待たせいたしましたm(__)m
Side:アベル
俺は名はアベル。将軍を勤める侯爵の次男坊だ。
あ、兄貴、つまり長男は、俺と違って頭がキレるから、軍人だが参謀とか、そっちの道を進んでる。俺も勿論、軍人を目指しているし、将来は将軍になりたいと考えていた。
まだ学生だから、先の未来だけどな。
………………けど、俺は道を間違えた。
俺は兄貴みたいに頭がいい訳じゃないから、順番に説明させてくれな? 俺が間違えちまった、全てをさ。
俺が生まれた家が、侯爵家っていうのは説明したな? そして父親が将軍て言うのもさ。小さい頃から、俺は父が自慢だった。将来は父のように、立派な軍人になる。それが俺の夢であり、決められた道だったんだ。だから俺が5歳の時に、殿下に紹介された時は、幼いながらに、この人を守るんだと使命感に燃えたんだ。
月日が経ち、無二の親友とも呼べる仲の良い仲間も出来た。
更に嬉しい事に、俺には可愛い婚約者も出来た。俺より3歳下の子で、伯爵家のご令嬢である。可愛い彼女を守る。そんな使命感もあったんだ。
………………順風満帆だったんだ。この時までは。
俺には、誰にも言ってない事がある。秘密とも呼べる、俺の心の闇の部分。
あいつは、あの女は、俺の気にしていた部分から、言葉巧みに近付いて来た…………。
学園に入学し、仲間と馬鹿をやりながら、それでも高位貴族らしく立派に振る舞ってきた。傲慢にはならず、下の連中とも話し、俺は自分自身、立派にやってると思ってた。勿論、頭脳タイプのカインみたいには出来ないが、俺は皆と仲良くやっていたんだ。自分らしく、楽しくさ。
そんなある日、俺はぶつかって来た下級生の態度に、叱りつけた。今思い返しても、間違いなく俺が正しいと言える。断言出来る。
後から聞いた話、彼は待ち合わせに遅れそうになり、急いでいたそうだ。本来なら、使用人を使い、事前に連絡を入れるのが習わしである。因みに、使用人は爵位により決まった人数しか連れて来れない。故に、下級貴族の彼は、使用人に頼めず、慌てていたそうだ。
……………正直な話、それなら誰かに頼めよ、と思うだろう。
彼は、俺とのやりとりですっかり萎縮してしまい、上手く呂律が回っていなかった。
「そこで何をやってるんです!?」
淑女だと言うのに、見事な大声を上げた彼女に、場は騒然。当然だ。レディが大声を上げるなんて、はしたない行動なんだから。彼女は、彼を庇うように手を広げて、俺と真正面からぶつかってきた。
………………レディはやらない。絶対に、こんなこと。
「弱い者虐めは駄目です!」
………………俺は虐めていたんじゃなくて、注意していただけ。傍から見たら、そう見えたかもしれないが、この時の俺はイライラしていた。そして、有ろうことか、高位貴族の俺に対し、堂々と言った馬鹿な女に興味を持ってしまったのだ。
そこからは早かった。堕ちるまで………………。
周りに彼女を目当てとする仲間、俺の親友達が集うようになって、俺は有ろう事か、殿下に、忠誠を誓い守ろうとした殿下に、嫉妬や恨み等の、黒い感情まで持ってしまったのだ! あの時の俺だけは、今の俺は許せない。絶対に! ああ、ぶん殴れる機会があったら、絶対にぶん殴ってやるのに!!
そして、とうとう、あの日が来た――――――――。
「こぉんのぉ、馬鹿者がぁぁぁ―――――――!!!」
父から、今まで向けられた事も無い、殺気がこもっていた視線が来た。憤慨した父は、恐ろしかった。拳骨も、本当に殺されるかと思った。実際、途中で意識を失う程だったのだから、実力の違いなんだろう。俺もそれなりに鍛えて来たのに、受け身一つ、全く取れなかったんだからさ。
……………本当に馬鹿だよな。守ろうと誓った人を、守るどころか、陥れようとまでしたんだからさ。
「明日から、直々に鍛え直してやる! 覚悟しておけ!」
俺に与えられた罰は、軽く見えて、重いものだった。取り敢えずは謹慎だが、家族一同からの鍛え直し………つまり、教育し直しである。
マジで、死ぬかもと思った。だって、家族、それは親族も入っていて、更に、皆が近衛やら騎士をしているんだから……………。そんな彼等を含めたら、間違いなく俺は保たないだろうよ。それでもやらなきゃいけない。俺が本来なら進むはずだった輝く未来。それにもう一度、手を伸ばす事が出来るなら、俺は掴みたい。仲間と共に、また、あの楽しくも充実した、俺が心から求める日々へ向けて、明日からやり直そう。親父が直々に鍛えてくれるっていうんだ。このチャンスを物にしないくては勿体ない!
………………そう、思う事にしたんだ。だって、そうでも思わないと、逃げてしまいそうだったからさ。
◇◇◇◇◇
次の日からは、正に充実した日々だった。……………そう思う事にした。
朝日と共に起床し、朝の庭をランニングして。久しぶりのランニングは、昨日の傷もあって、不恰好なものだったけど、気分的には晴れ晴れとしてたな。だって、俺の憧れたる父親に、直々に鍛えて貰えるんだ。こんな機会はもう無いはずだ。例えそれが、俺がやらかした結果だとしてもさ。
勿論、俺は馬鹿だから、単純に考えただけだ。反省はしてる。あんな紛い物に、危うく引きずり込まれるところだったんだからな。でも、いつまでも、くよくよするつもりは無い!!
「さてと、イテテ………、頑張るぞ!」
俺が空に向けた拳は、怪我の所為で、不恰好なものになった。
◇◇◇◇◇
「それでも武門の子かっ!! 何だっ、その構えは!!」
親父からの叱責は、既に何度目か。傷が痛すぎて、腕も上がらなくなってきた。もう、至るところに出血を伴うケガをしていて、歩くのもやっと。
それでも稽古は終わらない。
でもさ、辞められるわけがないだろ。親父の目の奥に、後悔とか苦悩とか、色々と見えちまったんだからさ。
………………俺が自分で蒔いた種なんだ。収穫まで、最後までこの現実と向き合っていくさ。
「考え事とは、随分と余裕だな? 馬鹿息子!」
そういえば昨日から一度も、名前では呼んで貰えなくなった。親父はいつも、俺の名前をしっかりと自慢気に呼んでくれていたけど、もう、呼ばれる事も無くなるんだろう。親父の顔に、泥を塗ったんだからさ。
……………今更ながらに、俺はまた後悔してる。何で道を間違えたんだろう、ってさ。間違えなかったら、未だに親父は、俺の名を誇らしげに呼んでくれていたのにさ。本当に、馬鹿な息子だよな。
「こらっ! また脇が甘い!」
「くっ! はいっ!」
なあ、親父? 今度は、今度こそは、俺は道を間違えないからさ。頼むから、もう、そんな辛そうな、後悔するような、そんな顔をしないでくれよ。
◇◇◇◇◇
あれから一ヶ月。
俺は復学し、今では殿下や、その婚約者のユリアナ様、仲間の奴らと一緒に、生徒会でやり直しをしている。いや、償いって言えばいいのかな?
俺達が学園に行った辺りは、風当たりが凄かった。冷たい視線は、覚悟してたけど、結構キツかった。
でもさ…………、頑張ってたらさ、皆の目が変わって行くんだよ。冷たかった皆の目が、少しずつ柔らかくなってきたんだ。
一番のビックリは、殿下かな? あの方は、嫌な事からは逃げるばかりだったのに、最近はしっかりしてきたし、俺も人の事は言えないけどさ。でも今の殿下は好きだ。あ、恋愛の好きじゃないからな? 尊敬する意味で好きなんだよ。
「ユリアナ! 今日のランチは僕とどうだい?」
「あら………殿下、有難いお誘いですが、ランチは生徒会室で執務をしながら、皆様で食べますわよ?」
「え………はい」
はぁ………、殿下。頼むからさ、口説くなら、もっと上手くやってくれ…………。ユリアナ様も、殿下にもう少し、優しくしてくれたらなぁ…………。落ち込んだ殿下を励ますの、大変なんだよ。
「殿下、ドンマイ」
「俺は嫌われてんのかなぁ…………ユリアナ〜」
こういう所、変わらないなぁ。カリスマ性が出たかと思えば、情けない部分もあって。
でもさ、昔の貴方よりも、今の貴方なら、本当に心のそこから守りたいって思うんです。
だから、連日の楽しそうな親父達に鍛えられるのも、嫌じゃないんですよ?
「ほら、殿下、ユリアナ様は、皆で食べようと言っただけじゃないですか、食べないとは言ってないんですから、安心してくださいよ」
あ、殿下の機嫌が直った。本当に、こんな所は変わらない。
なあ、殿下。俺はもう、間違えないぜ。あんたを、そしてユリアナ様を、守るよ。
だからさ、殿下。俺の永遠の忠誠心を貴方に―――――。
読了、お疲れ様でしたm(__)m
本日のお話は如何でしたでしょうか?
本日の彼は、本当に苦労しました。途中、スランプになり、大変でした。
どうも今年中の終了は無理みたいです。かわりに、同時連載をしています『天と白の勇者達』を普段より多く連載しますので、ご容赦下さいませ。
本日は、上記作品を同じ時間に投稿しております。興味のある方は、よろしければ覗いて見て下さいませ。
では次回、またお会いしましょう♪