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お待たせ致しました!
Side:カイン
私、カインはこの国の宰相の家の長男に産まれました。私は自慢ではありませんが幼き頃より、他の子に比べて、勉強や運動、芸術、何でも出来た為か、大人達から神童と言われました。そこで天狗に成らなかったのは、きっと父のお陰でしょう。父は私に、幼き頃からこう言ったのです。
「常に上を目指しなさい、けれども優しさや思いやりを持たぬ者には、上は目指せませんよ」
幼い私には、難しい言葉でした。しかし、父が意味の無い言葉を言う訳がありません。
この国の宰相は、生半可な者が出来る物では無いのです。貴族達の一番頂点に立ち、陛下を支え、仕事を整え。父の忙しさは、幼い私にも分かる程だったのですから。
そんなある日、私が5歳の時に、父と共に王宮へ上がりました。私が殿下のご学友の一人に選ばれたのです。これは名誉な事であり、将来が約束されたも同じなのです。幼くても事態が理解できた私は、嬉しかったのです。
ようやく父の手伝いが出来ると。行った部屋には、私と歳の近い子供達が、既に何名か居り、玩具で遊んでいました。中にいたのは数人の女の子と、数人の男の子で、意外な事に、皆が仲良く遊んでいました。
あの時、殿下は天使様のように愛くるしく、女の子と間違えかけるなんて、馬鹿をやらかしましたが、誰も知らないのだから、問題は無いでしょう。僕の事を女の子みたいと言った、将軍子息のアベルには、後から将軍様から直々に怒りの鉄槌を受けたらしく、幼いながらも私はスッキリしました。
今なら分かります。あの女の子達は、殿下の妃候補でしょう。実際に、公爵令嬢たるユリアナ様が選ばれたのですから、大人達の策略でしょう。
しかし意外な事に、私達が仲良くなるのは、とても早かったのです。何せ、子供ですから………。
それから10年余り―――――。
既に政略とはいえ、素晴らしい令嬢と婚約していた私は、運命の日を迎えたのです。
本当に、本当に、何故、あんな令嬢モドキを好きになったりしたのか…………思い返すだけでも、鳥肌が立つのです。今となっては。
「あの、大丈夫ですか? あまりお顔色が良くありませんが…………」
その日、朝から風邪気味で微熱がありましたが、無理をして働いていた私は、誰も気付かなかった中で、只一人気付いた彼女に、感心を持ったのです。持ってしまったのですよ、あの時の愚かな私は!! 過去に戻れるなら、拳骨の一つや二つ、自分に向かってやったでしょう。今更ですが、自分より高位の存在に、下の者が声をかけるなんて、本来ならあり得ないのです。本当にバカでした。それだけ、今は忌々しい記憶になっています。
しかしあの時の愚かな私は、彼女が理想の女性に見えたのです。私の欲しい言葉を言ってもらえたのですから。
本当に愚かです! あんな見せかけの聖女なんて、意味がありません!! 私の聖女はやはり、婚約者の令嬢だけなのです!!!
まあ、そんな訳で、後はご存知の通り、あの茶番劇へと向かって行くのです。
僕はあの時、本気で公爵令嬢を破滅させるところだったのです。もし、リアン様が止めに入らなければ、今頃どうなっていたか………。
あの後の父はブリザードに例えられる程、恐ろしかった。今まで見た中で一番、私は恐ろしかったのです。
意気消沈して家に帰ってからは、今度は母に言われました。
「期待していたのに、……………貴方は失敗作ですね」
多分、それが一番、堪えました。母はあの日から、本当に私に一言も話してくれなくなりました。廊下で会おうが、全くの無視です。弟も妹二人も、まるで他人行儀な状態になってしまったのです…………。御飯さえ、私だけ別になりました。自室で取る事になったのです。それだけの事を、愚かな私はしてしまったのでしょう…………。淋しくありましたが、仕方ないと諦めました。屋敷にまだ、居場所があるだけ、私は恵まれているのでしょうから……………。
「悔しければ、意地でもはい上がってこい」
それが、父が唯一、私に向かって言ってくれた言葉でした。本当に、あの時の私には、それしか残っていなかったのです…………。
次の日から、私は父の言葉を胸に、今まで溜めてしまった物を、全て片付けて行きました。死に物狂いでやりました。それこそ、寝食を忘れる程に……………。今まで溜めてしまった分は、恐ろしい程ありましたが、今の私にはそんなのでへこたれている場合では無かったのです。本当に後が無い事が、やっているうちに分かってしまったのですから―――――。
僕は、未だに学生の身分です。だから、生徒会に入り、将来を擬似体験していたはずだったのです。なのに、途中から投げ出そうとした自分が、果たして将来、上に立てるかといえば、それは無理なのは承知の事実。
ともなれば、私はただ、死に物狂いで仕事をこなし、無くした信頼を戻すしか道はないのです。
ただ、幸いな点が一つありました。私にも。
私の婚約者が、言ってくれた言葉です。
「婚約解消は、貴方の今後を見て、考えさせて頂きます」
人から見たら、何て薄情なと言う方もいるかもしれません。でも、本来なら直ぐにでも、婚約解消をするのが貴族での一般論です。猶予を頂けるのは、私にとっての希望とも言える事柄なのです。
だから、生徒会の一人として、貴族の息子の一人として、上に立つ為にも、必死で努力を重ねました。
あれから一ヶ月が過ぎ………。
我々が多大な迷惑をかけた公爵令嬢ユリアナ様が学園に戻られました。王子は居ても立ってもいられないのか、校門に迎えに行ってましたね。微笑ましい事です。私も後程、謝らなければいけません。
………………後程、謝ったら、何故か冷たい顔をされました。なるべく人が多い所でやったのが、いけなかったのでしょうか? 流石に未婚の女性とのスキャンダルは、遠慮したいとの配慮だったのですが……………。
そうそう、私は一ヶ月で家族との食事の場に度々、呼ばれるようになりました。ありがたい事に、一言二言、家族と話せるようになったのです! 母には、未だ話し掛けて貰えませんが、家族との食事は、私には何とも言えない思いが、込み上げて来ました。本当に何て愚かだったのでしょう。
後悔ばかりが先に立ちます。
でも、少しずつ、学園でも私を見る目が変わって行くのが分かるのです。あれ程、私を、いえ………、私達を冷ややかに見ていた多くの生徒や先生が、少しずつ視線が優しい物になって行くのです。声をかけてくれた事、優しい言葉で手伝ってくれたこと、そんな小さな事でも、私には嬉しかったのです。
それから半年程して、結局、私の婚約は継続となりました。やはり、婚約者は私を選びたいと言ってくれたのです!!
もう、みっともないのは承知で、泣きました。久方ぶりに、心から………………。婚約者には、かなり引かれましたが、そこはご愛嬌と願います。そうそう、殿下も必死でユリアナ様を口説いているようです。私は婚約者とは、上手くいっているので、殿下には是非とも頑張って欲しいです。
「ユリアナ、今日の君は何て美しい! 僕の目が潰れてしまいそうだよ」
…………………ゴッホン。
口から砂糖が出そうです。私には無理な物ですね。もう、気持ち悪くて…………。あの幼い頃から、不器用だった殿下が、必死で口説いている。私には無理です。もう、あの気持ち悪い殿下の傍にいなければならないと思うと…………。
「殿下、いい加減に真面目に仕事をしてください!!」
今は生徒会の活動で、書類整理をしているのですが。先程から、同じ生徒会メンバーであるユリアナ様と、いまだ婚約者の殿下が痴話喧嘩モドキをしているんです。
正確には、ユリアナ様は真面目に仕事をしているのですが、殿下が邪魔をしているんですよ…………。机の上がカラですから、仕事は終わったのでしょう。
ならば口説くより先に、仕事を手伝えばいいものを!!
「殿下? 無駄口たたく時間があるのでしたら、仕事を手伝って下さい!」
こちらとて、腹が立っているのですよ。このクソ忙しい時に、惚気やら甘い口説き文句やら…………、こちらに喧嘩を売っているのかとっ! 僕だって、婚約者を口説き甘い時間を過ごしたいのに!!
「わ、分かったよ! やる、やるから、剣はしまえっ!」
おや、気付けば、懐から護身用の短剣に手が伸びていたらしいです。
「さあ、終らせますよ?」
だって今回の行事は、我々の親が揃って来る大切な物なんですから。
それから数年後、僕は幸せな結婚をして、幸せな家庭を築きました。勿論、殿下もヘタレながら、王様を助けていますよ。まあ、家庭は幸せそうですから、きっと良い部下になるでしょう。
今から楽しみですよ、殿下。
僕は、貴方の為にも、この罪を一生背負って行くでしょう。あの時、本当に夢から醒めて良かった。
……………我ら咎人の未来に、幸多からん事を―――――――。
読了、お疲れ様でした!
ようやく次話が書けました。本日は、宰相子息カイン君です。本当に本当に、書くのが大変でした。
次は将軍子息君いこうかなぁ。絶対にヤンチャ坊主ですよね? さあ、はっちゃけて書こう☆
次回も出来しだい、水曜日に投稿しますね!!
来週は、『天と白の勇者達』を更新します。こちらも宜しくお願いします。