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お久しぶりです。本日は王子様視点(笑)
……………色々、ツッコミがありますが、お気になさらずに、さらっと流して下さいませ。
Side:レイド
僕はこの国に生まれた、国王の三番目の王子。上には生きた伝説なんて言われる姉、リアン姉様がいる。更に、優秀な兄二人がいて、正直な話、僕がいる意味はなかった。勿論、下にも弟達はいるけれど、腹立たしい事に、此方も優秀とくれば、僕は面白くない。
更に面白くないのが、僕の婚約者。名をユリアナと言い、公爵令嬢である。まあ、位からしたら、当然なんだが、僕は気に入らない。だって婚約者の僕より優秀なんだぞ? 普通は僕を立てるべきだろう!?
そう、この頃の僕は内心、ずっとイライラしてたんだ。周りが僕より優秀なのが、気になって。更に酷い事に、僕は自分のお付きの者、歳の近い友達と呼べる彼らさえ、イライラの原因だと思ってさえいたんだ。
……………あの頃に戻れたら、マジでぶん殴っていた、自分を。
それでも学園では、まだ羽目が外せたから、城にいるよりもずっと楽だった。勉強だって、武術だって、ずっと上位にいれたから。
―――――自分が優秀だと、安心出来たから。
そんな頃、僕の黒歴史ナンバーワンに輝く、あの忌々しい嘘吐き娘、リリカと出会った。
最初の出会いは、確か、そう。僕が一人で廊下を歩いていた時の事。廊下の向こう側から、花瓶に花を生けて、嬉しそうに微笑みながら歩く姿を見た時だった。貴族令嬢が見せるような、あの澄ました微笑みでは無く、自然な微笑みに僕は意識を持っていかれたのだ。が、彼女は何かに躓いて見事に転けた。この時、ビックリする程、早く動き、彼女を支えられたのは奇跡に思う。後から、要らぬ奇跡だと心底思ったが。
「大丈夫か?」
そう問えば、恥ずかしそうに頷く彼女。遠慮がちに僕を見て、慌てふためく姿は、何故か小動物に見えて、可愛らしく。この時、花瓶の中身が零れ、制服が濡れたが、この時は全く気にならなかった。僕は何故か、彼女から目が離せなくなっていたから。
それから頻繁に会う内に、彼女に偽りの恋をした。後から、自分自身を殴り付けたくなるような、馬鹿な恋を。
その恋は順調だった。途中、何故か僕の友達達が増えたけど、彼女がいれば良かった。本当に馬鹿な事をしたと本気で今なら分かるが、あの時は彼女に夢中だったのだ。今の自分が鳥肌を起こす位にはな!
が、その恋には邪魔が入った。彼女が影で苛められたのだ。この時ばかりは仲間と手を取り、僕は彼女を守ろうとした、害悪から。しかし日に日にエスカレートしていく苛め。誰がやったか彼女に問うものの、彼女は言わない。何とか言わせると、予想通りと言うべきか。僕の婚約者、ユリアナだった。僕は、本当に馬鹿だったと思う。だって、僕は調べる事も無く、リリカの言葉を信じてしまったのだから…………。
そして、あの日。
婚約破棄を学園の食堂で言おうとした自分。リアン姉様が止めなければ、僕は死んでいただろう。こればかりは、止めてくれたリアン姉様に本気で感謝した。
まさか三歳でユリアナに一目惚れした僕が、ユリアナを他の誰にも渡さない為に、命をかけた契約書を作るとか、有り得ないだろう!? 過去の僕は一体何をしてるんだっ!!
……………でもお陰で、ユリアナを失わなくて済んだから、それだけは褒めるけど。内心複雑だ。
さて、リアン姉様に渡された紙の束。よく見れば、父上である国王陛下の直属の密偵達が纏めた物だった。これには嘘偽りは書かれる事はない………。
だから、リリカの本性、更に身分詐称を見た瞬間、頭が真っ白になった。手から紙が滑り落ちたのも、気付かなかった。
「これで分かったかしら? 馬鹿弟」
姉はいつも僕の事はレイドと呼ぶ。それが名前すら呼ばれない。その意味する事ぐらい、僕だって分かる。姉がもう、僕を何とも思ってない事も―――――。
それから、衛兵付きで父である国王陛下の御前に連れていかれ、カンカンに怒った父より、教育し直しを言い渡された。近くの、宰相息子と将軍息子よりはマシのはずだ。愛の拳骨をしこたま食らうか、静かな怒りが籠もった急所狙いの口での説教を食らうか…………どちらも違った父には感謝しよう。
先に退出したユリアナは、見事な爆弾発言を落としたが、無事になるようになったのだ。国外に行きたいとか、普通は考えないぞ? 更に退出した時の、あの妙に晴れやかな笑みが脳裏に焼き付いて離れなかった。
……………どうやら僕はまた、ユリアナに一目惚れをしたらしい。
さて、全員が屋敷に帰され、残った僕に対して、静かに控えていた母上が近付いてきた。そしておもむろに扇子でおもいっきり僕を叩いた。叩かれたのは、初めてだった。それも母上だ。ショックで頭が真っ白になった。思いの外強い衝撃が消えると、何故か母上が泣いていた。泣かせたのは僕のはずなのに、何故、母上が泣いているのか分からなかった。ヒリヒリした頬が、余計に虚しかった。
……………自分が母上を泣かせ、辛い思いをさせたのは、本当だから。
「馬鹿弟、母上を追い詰めたのは、貴方よ」
静かなリアン姉様の言葉が、頭にこびり付く。
その日は、僕の憔悴ぶりに教育は不可とされ、部屋に帰された。勿論、軟禁状態だったが、気にもならなかった。考える事が山のようにあったから。
ふと、いつもこんな時に傍にいた存在を思い出す。
……………ユリアナ、やっぱりキミが居ないと駄目みたいだ。
あの、僕達が起こした茶番劇さえ、キミは冷たい目をしていた。まるで興味が全く無いと言われているかのようで、辛かった。
目から、一つ、また一つと後悔から涙が溢れだす。気付けば、次から次へと溢れだすそれに、何年ぶりかで大声を出して泣いていた。
僕はただ、認めて欲しかった。僕と言う存在を、父に母に、兄弟達に、そして最愛のユリアナに。ただ認めて欲しかったんだって、今更ながらに気付いた。
今更気付くなんて馬鹿だ、僕は。
ちゃんと、明日から頑張るからさ。だから今は、今だけは、泣かせて欲しい。弱い自分は、捨てるから。だから、今だけは、サヨナラの為に、心のそこから泣かせて下さい。
次の日、声は擦れ、目が腫れたが、気分は爽やかなまでに清々しかった。
やり直す、やり直して、新しい毎日を手に入れよう!
その日から、教育は始まった。いくら勉学が出来ても、人が出来ていない僕は、何度も失敗したが、諦めなかった。今まではしなかったそれらを、先生が許す限り、食らい付いた。必死に夜遅くまで勉強し、更には兄達に頭を下げて、教えて貰った。勿論、父上や重役達にも。
…………僕がどれだけ、狭い中で生きてきたのか、嫌でも理解した。それはそうだ、こんな馬鹿を誰が認めるだろうか!!
それでも、僕は食らい付いた。もう昔の、母を泣かせ、父を怒らせ、姉に諦められる存在には戻りたく無かったから。
日に日に、視野が広くなり、僕は自分が今、どんな立場に立たされているのかも理解した。かなりヤバい状態である事も。
それでも、ただユリアナに、彼女にだけは捨てられたくなくて、必死だった。公爵にカンカンに説教されようと、ユリアナを思う気持ちを、絶対に諦めたくなくて。
ただ彼女に、昔のように微笑んで欲しくて。
僕は今日も、必死で勉学に食らい付く。
◇◇◇◇◇
あれから1ヶ月。
ユリアナが学園に復帰すると聞き、いても立ってもいられなかった。
最初、学園に戻った僕が感じたのは、冷たい視線だった。当然だと思った。僕はそれだけの事をしたんだから…………。
今までのツケを払うように、僕は全てに対して頑張った。日に日に、皆の目が柔らかくなったけど、僕は納得しなかった。
まだだ、まだ、僕は認められてない。学園の全員とは言わないが、せめて無くした物を取り戻したい。
僕の他に、友達と言われる四人が必死で頑張っている。彼らは善きライバルとなって、今は共に前を向いている。
…………それでも、まだ足りない部分はあるけれど。
それは必死で掴み取るつもりだ。
そして、1ヶ月ぶりに見たユリアナは、まさに大輪の百合を思わせる存在となっていた。美しい金の髪はサラサラと風に揺れ、白くシミの無い肌はまるで白磁の皿のよう。何より顔立ちが、まるで精巧な人形のように美しく。その場に女神が表れたかのようだったのだ!
やっぱり自分は、ユリアナに恋をしている! 正真正銘の真の恋を。
「やあ! ユリアナ! 今日も何と美しい!」
声をかけたユリアナが、唖然としていたけれど。
ねえ、ユリアナ? 絶対に君を笑わせてみせるよ。僕は本気だからね?
だから、僕を好きになって―――――ユリアナ。
◇◇◇◇◇
それから数年後。
今までぼんくらと呼ばれていた王子が、心を入れ替えて、必死に頑張り、メキメキと頭角を表し、国を支える存在となった。
その傍らには、美しき妻が寄り添っていたという。果たして、その美しき妻が誰かは、定かではない。
読了、お疲れ様でした。
前回から、随分と間が開いてしまいました。
えー、予定より執筆が遅れております。これも現実世界がいきなり忙しくなった所為ですよ…………トホホ。
恐らく、今年いっぱいかかりそうです。ぜーったいに、完結させます!!!
さて次回は、お馴染みである宰相子息。恐らく、一番精神的な意味での被害者。
……………ある意味、一番書きにくいキャラクターでもありますが、頑張ります!
では次回、またお会いしましょう☆