表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

―1―

はじめましての方も、お久しぶりな方も、楽しんで貰えたら幸いです。

Side:ユリアナ



「ユリアナ! 今までのリリカに対する非道の数々………、もう許せんっ!! よって貴様との婚約はっ…「そんな勝手が許される訳ないでしょっ!!」……えっ、姉上!?」


(あら、面白い所でしたのに………)


ちょっとムッと来て、けれどもばれたら困るので、扇子で口元を隠す。

今現在、彼女、名をユリアナと言うのだが、その目の前で茶番劇が催されていた。お馬鹿なユリアナの婚約者によって。それを中断したのは、彼の姉で女傑と言われる生きた伝説、リアン様である。


「ちょっとユリアナ!? 貴方、何他人事って顔をしてるのよ!! 貴方と婚約破棄したら、この馬鹿はこのまま死んじゃうのよ!?」


怒りの矛先がユリアナに向けられる。当の馬鹿、もといこの国の王子は、今の言葉に唖然としているけれど、まさか、知らなかったのか! 逆にユリアナの方が驚いてしまった。


「てっきり、自殺願望でもあるのかと」


「「んな訳ない(だろう)でしょう!!」」


二人の声が綺麗に重なった。流石姉弟。息ピッタリである。


「はあ、取り敢えず間に合って良かったわ」


そういうと、リアン姫様より王子の前に、分厚い書類が手渡された。


「読みなさい、お父様より渡されました」


先程とは違うリアン様の姿に、戸惑う様子を見せつつも、素直に王子は書類を読んでいく。が、読み進める毎に何故か顔が強ばって行く。訝しんだのは、彼に付き従う四人の貴族子息と、もう一人。小動物を思わせる可憐な少女。この馬鹿な騒動の発端となった、男爵家の令嬢である。


「あ、あの? レイド様? どうなさったのです?」


心配の色を滲ませる彼女に、王子以外の子息達、宰相子息のカイン様、将軍子息のアベル様、公爵子息のロイス様、伯爵子息のドイア様、以上の皆様が王子に嫉妬の姿を見せつつ、健気に心配するリリカ嬢に対して、優しい微笑みを見せる。


「理解したかしら? 馬鹿弟?」


口調は優しいのに、微笑みすら浮かんでいるのに、視線は冬の凍てつく氷のような姿が、まさに生きた伝説と言われる由縁であるが、この方に睨まれて平然としている人物が果たしているのだろうか。いるならば、是非とも見てみたい。なんてユリアナは内心、現実逃避をしていた。


「あ、姉上? これは事実なのですか?」


今までの姿が嘘のように、弱々しい口調と態度で、姉に問うレイド王子。余りのショックにか、手からその書類が床に散らばるも、拾おうともしない。気をきかせた取り巻き達が拾うが、その手がピタリと止まった。顔には驚愕の文字。


「全て、お父様が直属である隠密に調べさせたそうですわ」


その言葉に、王子と取り巻き達は、今度こそ完全に勢いを無くした。それはつまり、真実という他にない、決定的な証拠だから。


「失礼ながら、リアン様? 一体、何が書かれていますの?」


先程までの勢いすら皆から消してしまった何かの報告書。リアン様は何も言わず、視線で見ろと促すだけ。正直、今の王子達に近づきたくないが、報告書の為には仕方がなかった。


「何々………、は?」


大げさではなく、令嬢としての礼儀作法を受けたユリアナでさえ、本当に開いた口が塞がらなかった。そこに書かれていたのは、リリカ嬢に対する身辺調査と生活態度。その内容に、思わず頭痛がした。

何故、自分でドレスを切り裂けるのだ? これ一着、幾らすると思っているのか。

何故、花壇を荒らすなんて、野蛮な行為が出来る? 元に戻すのに、どれだけ手間がかかると思うのか。

何故、階段から自分で落ちるなんて危険な事をする必要があるんだ? 下手したら結婚相手すら居なくなる。

まだあったが、先も同じような内容が延々と書かれているのだろう。まとめた人物もビックリの悪女っぷりである。

更に、別の紙に書かれている彼女の経歴。これにも驚くべき事実が書かれていた。


「え、これって………!」


流石のユリアナも血の気が引いた。何とリリカ嬢は、貴族ですら無かったのである。貴族の家に預けられた親戚の子供であり、実家は男爵家の分家で、騎士の一族。勿論、貴族ではない。

つまり、身分詐称。


「寄りにもよって、あなた方は一体何をするつもりだったのかしら?」


リアン様に睨まれて、王子達は気まずそうに頭を下に向けた。


「カイン様? 皆もどうしたの?」


心配する彼女に、今度こそ誰も視線を向けなかった。いや、向ける訳にはいかなかった。彼らは貴族、そして王族。咎人とかかわり合いになるなんて、許されないのだから。それくらいの思考能力は残っていたらしい。


「衛兵、彼女を牢屋へ」


リアン様に言われ、リリカ嬢は屈強な兵士達に連れていかれる。その取り乱した姿に、辺りがまた騒然となっていたが、仕方あるまい。

何せ、王子達がやらかした場所が、人が沢山いる学園の食堂だったのだから。自分達で自分達の首を締めたのである。自業自得としか言い様がない。


「さぁて、馬鹿弟王子、取り巻き共? 国王陛下がお待ちだよ? しっかり説教してもらいましょうね? 勿論、ユリアナ、貴方も被害者として来てもらうわよ?」


美しい微笑みを浮かべながら、リアン様はユリアナと馬鹿弟と、その取り巻き達を連れて、王宮に向かう。途中、馬車の中で、恐怖に怯えた彼らの姿があったそうだが、生憎とユリアナはリアン様と同じ馬車だった為か、見る事は無かった。


(絶対に、笑える顔でしたでしょうに、惜しい事をしましたわ!)


内心で悪態をつこうとも、ユリアナは見事な公爵令嬢を演じたのだった。


◇◇◇◇◇


「こぉんのぉぉぉ、馬鹿共がぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!」


あまり広く無い、陛下の執務室は、必要最低限の物が置かれた、けれど高級感がある品の良い部屋である。

が、今現在は、陛下と各家の代表者たる彼らの父君達の、説教大会とかしていた。


「人を見る目を養えとあれだけ口を酸っぱく言ったと言うのにあんなのに引っ掛かるとは恥を知れ恥を!!」


一息で言い切った陛下、顔が怒りで真っ赤になっていた。他の家の方々も似たり寄ったりだろう。特に知恵者として有名な宰相様は、先程からブリザードが吹き荒れており、その余波がユリアナとリアン様の所まで来ていた。傍迷惑である。


「レイド、お前はユリアナ嬢とは婚約破棄出来ないのだ、やれば死ぬからな、リアンが間に合わねば死ぬ所だったんだぞ?」


陛下に諭されるも、殿下はこれに関しては知らなかったらしく、ぎょっとしていた。


「父上、先程から気になっていたのですが、一体どういう訳ですか? 私が破棄したら死ぬとは、初耳なのですが………」


この王子の言葉に、辺りが今度はぎょっとした。ユリアナは、巻き込まれたくないので、隅っこの椅子に座ってお茶を飲んでいた。


「まさか、本当に知らなかったのか? 自分で、ユリアナに一目惚れして、他に渡したく無いから、特別なサインをしてこんな契約書書いたのにか!?」

国王陛下、唾が飛びまくっているが、それどころではない。


「陛下、恐れながら申し上げますが、それは殿下が幾つのお話でしょうか?」


将軍様の問いはもっともな物である。その真正面に、瘤だらけの物体さえ無ければ、様になったともユリアナは思ったが、言わなかった。きっと言わない優しさもあるだろう。


「ん? 確か3つだったか? あまりにしつこいのでな、根負けしたのだよ」


(陛下、それは普通、忘れますわよ?)


幾ら王子とて、流石に3つの事は覚えているのも怪しい辺りだ。


「取り敢えず、ユリアナ嬢、本当に申し訳なかった、この馬鹿息子はワシが責任を持って鍛え直すから安心してくれ、お詫びに破棄以外で願いを一つ叶たいと思うんじゃが、何かあるかな?」


丁度、お茶を飲んでいたユリアナは、いきなりの事に面食らったが、何とか平静を装う。さて、願い事。それも破棄以外。


(んー、あ!)


「では陛下、わたくし、隣国に見聞を広めるために、留学したく存じます」


それを言った瞬間、室内から音と言う音が消えた。


(あら、陛下が言えと言ったから言ったのに………)


勿論、これにはイエスは出なかった。何せユリアナは正真正銘の公爵令嬢であり、馬鹿とは言え王子の婚約者、更に父親である公爵を始めとした家族達から、末っ子故に溺愛されているユリアナを、国外に出せる筈もなく。多分だが、ユリアナが留学なんてしたら、国が滅ぶ…………。そんな未来さえ浮かぶ故に、流石に留学は認められなかった。


「では、薔薇が美しいとされる離宮、ミシュラン宮殿へ、しばし滞在する事をお許し下さいませ」


ミシュラン宮殿は、陛下の祖父に当たる方が、妃の静養のために作らせた宮殿で、代々の病気を患った王族の静養地である。それ故に、美しい花園が作られ、閑かな離宮として密かに人気があった。


「ん? それで良いのか?」


流石に陛下も驚いたようだが、最後にはしっかりと了承してくれた。


「では陛下、殿下、皆様、わたくし準備がありますので、これで失礼しますわ」


優雅に礼をして立ち去るユリアナに、皆は感心した面持ちでいた。ただ一人、王子だけがアホ顔で、ユリアナを見ていた事は、幸いにも誰も気付かなかった。


◇◇◇◇◇


それから直ぐに、ユリアナはミシュラン宮殿に向かい、お泊まりしていた。最初は直ぐに帰るつもりだったのだが、陛下の計らいで一月程、滞在が許可されたのだ。美しい薔薇に囲まれ、ユリアナはすっかり機嫌を直していた。まさに、それだけ素晴らしい薔薇園だったのだ。他にも花園があり、もう毎日いても飽きなかったくらいだった。

が、一ヶ月はあっさり過ぎ、ユリアナは学園に復帰する日を迎えてしまった。まあ、仕方ないと感じ、学園に行けば、そこには信じられない光景が。


(現実逃避していいかしら?)


内心で思ったのは仕方なかろう。なんせ、目の前には、すっかり男らしくなった婚約者のレイド様が、笑顔で待っていたのだから。


「やあ、ユリアナ! 久しぶりだ、相変わらず美しいな!」


(幻聴かしら?)


即刻でそう思ったのは仕方ない。今までを考えれば、ごく自然なものだ。今までは、必要最小限の関わりしかもたなかったのだから。それ故に、いきなり口説かれても、ピンと来なかったのは仕方ないだろう。現実逃避した事も。


「貴女との結婚式が今から楽しみですよ! 変わった僕を見て下さいね!」


…………頭痛がしたのは、仕方ないだろう。



それから数年後、幸せいっぱいの結婚式が行われたのは、きっとそう遠くない未来。格好良くなった彼に、彼女が惚れたのも、そう遠くない未来のはずだ。多分。

読了、お疲れ様でしたm(__)m


秋月煉と申します。


乙女ゲーム物を、また書こうと考えていたら出来た作品です。お決まりシーンから来るストーリーですが、主に攻略対象者達の更正記になります。

楽しんで頂けたら嬉しいです。


勿論、感想や評価も頂けたら、更に嬉しいです。秋月はメンタル強くないので、お手柔らかにお願いしますm(__)m


次回は、近いうちに投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ