case20
もっと長くするはずだった大変遺憾である(迫真)
2015/6/11訂正
「グロッティ」の奥、調剤室にてごりごりと薬草を磨り潰す音が辺りに響く
「んー?やっぱり割合で回復量が変わるな」
そうして次次と行程を終らせ最終行程へと移りキッチリ仕上げた後、腕をくみ考え事をする。
先日ついに御披露目となった「梟」
それはこの世界の個人が持つにはあまりにも大きすぎる力だ
もっともすでに「ダーインスレイブ」「スヴァディール」等と言う強大な兵器を持っているが…
梟を創設したのが3年前。あの頃は入れ替わりが激しかった。
毎日毎日誰かが居なくなり、新入りが入ってきた。
死んだ者の中には家族が帰りを待つ者もいた。
彼らの下には神原が自ら出向き、遺品と彼らの死を伝えた。
神原に罵詈雑言を吐くもの、無言で扉を閉めるもの、涙と共に崩れ落ちるもの、など様々な反応をされた。
中には子どもがいるものもいた。だが、彼らは無邪気にも親の所在を神原に聞くが、彼は子どもと目線を合わせると決まってこう言う
「君の親を殺したのは俺だ。君は俺を恨んでくれていい。その権利が君にはある。君が大人になっても俺を殺したいと復讐したいと思っているならば、赤い布を垂らしてくれ。直接来ても構わない。最高の持て成しをする。」
そこで言葉を1度区切り子どもの目を真っ直ぐに見ると
「そしてもし、君が親の仇をとりたいと、護りたいものを護る力が欲しいときは青い布を垂らしておいてくれ。直ぐに迎えを送る。勿論直接来ても構わない」
多くの子どもはただ首を傾げるだけだったが、中には何かを感じとり決意をした目をする子もいた。
その時以来彼は「梟」の帰還率を100%にするためあらゆる手段を講じた。
装備、情報、戦術、基礎体力、知識、作戦時は必ず4人チームを組み作戦の成功率よりも生存を基本は優先させるなど
もっとも、今までの作戦は情報収集のみが主任務となりつつあった中、ぼちぼちと人助けをする半ば便利屋のような舞台だった。
梟の搭乗兵器BRIシリーズの命名とて、最初は別名だった。
だが、家に子供を残して置けないと神原に許可をとり基地へ子どもを連れてきた者が偶々いた。
本来ならば家族だろうと危険な場所のため厳禁なのだが、一部の区画、食堂ならば居て構わないと許可し、連れてきた者は緊急性の高い物を済ませたら今日は非番で構わないと通達する。
神原や技術班に所属していた者達が試作機を作り1年半、元々はほぼ神原が作り出していた技術を彼らは着実に身に付けていき、僅かながらも知識をより発展させ、自ら神原に意見し、彼には考え付かなかった発想で修正、改装されていく。
そして命名、本来ならばアサルトホーネットAHシリーズとなるはずだった。
しかしその時、子供を連れてきた者が技術班所属の数少ない神原に意見する者だった。
子供は連れてきた者に駆け寄ると神原に対しあなたは誰かと問う
直ぐにここで一番偉い人で私達の命の恩人だと伝えると
「じゃあ、僕のお母さんが何処にいるかしらない?ここに来てからみてないんだ。お母さんは凄く優しいんだよ」
と精一杯母の特徴とどんな人であったかを神原に自慢げに伝える。
「すまない。今はわからないが必ず見つける。約束だ」
「うん。わかった。お腹が空いてるかもしれないから早く見つけてね」
神原は任せろとばかりに子供の頭を撫でると子供にもう少しだけ待ってもらい連れてきた者を伴い別室へ行く
「…あの子の母は?」
「…ご想像通りです」
「そうか…すまない…」
「いえ…あの子が助かっただけでも…」
ついに堪えきれなくなったのか嗚咽を漏らしつつ顔を歪める
他の者も皆顔を歪めている。中には泣き出し、もはやこの世には居ない愛する者の名を呼ぶものもいる
「…アサルトホーネットだが…改名をする」
澱んでいた空気の中神原の声が静かに、だがはっきりとその場に居る者の耳に入る
「…何に改名するのですか?」
「諸君。我々は…復讐する者であると同時に、破壊者であり、自分勝手に命を救うものである。」
「そう…ですね」
「それでも我々は我々の道を進む。よって、これらの名称をブリューナクシリーズ。BRIシリーズでいく」
「わかりました」
この別室での改名理由はここに居たものしか知らない
だが、この命名までの流れは後々の命名まで繋がれていく
「マスター。ダーインスレイブ、スヴァディール。両船ともに点検完了。スヴァディール搭載兵器も点検完了しました」
「あぁ、ご苦労様」
「おつかれのようですね。お邪魔でしたか?」
「いや、少し昔を思い出していただけだ」
「そうでしたか。…マスター」
「ん?」
「皆、楽しそうですね」
「ああ、そうだな」
「では、私は職務に戻りますね。マスター」
「おう、おつかれ」
そう言って調剤室を出ていくピナカとすれ違いでイリアが入って来る
「こちらにいらしたのですねリンさん」
「…面倒事、貴族がらみ、厄介事お断り。本日の営業は終了だ。」
「まぁまぁ、そういわずに」
「ずいぶんと口調が砕けたな。そっちが本性か?」
「本性だなんて止めてくださいよ。照れてしまいます」
頬に手をあて恥ずかしそうにするイリアを見てため息をつく神原
「ほんで?用件はなんぞや?」
「こちらを」
その言葉と共に1枚の便箋を差し出す
「…俺の見間違いと勘違いでなければこいつは王家の紋章だな」
「ええ、そうですね」
「んでこいつぁ来たものは余程の理由がなきゃ断れない奴だよな?」
「はい。そのとおり、大正解です」
しばらく、便箋を眺めていたが神原はにやりと顔を歪める
「たしか、名前を間違えることは王だろうが誰だろうが大変失礼な事であり、外交で名前を間違えることは戦争に匹敵するんだよな?」
「まぁ…そうですね」
「言質はとったぞ」
「さて、では出発の準備をしなくてはいけませんね」
「しなくていいぞ」
「え?それはなぜで…まさか」
「ハァーハッハッハッここを見てみろ」
イリアに便箋を渡し名前の所を指さす。そこには
リンクァンバーラ
と書いてあった
「クァンバーラってフフッこれはなかなかププあ、無理」
ついに爆笑しだす神原。それに対しイリアは顔が真っ青になっている。
「こ、これ、これは…その」
「クァン…バァーラァー」
「フフッ…。リンさん大変申し訳ありません。厳重に注意しておきます」
「ん。クァンバァーラがよろしくって伝えて」
「かしこまりました。」
イリアが出た後こっそり、扉に耳をつけ外の音を聴くと
「クァンバァーラってフフフッ。お腹痛いフフッ。必死で笑うの我慢してたのにフッ。ドヤ顔でクァン…バァーラァーってフフフフッ」
笑い声が遠退いていくのを確認し、イリアに頼んだこの世界の本を読み始める。
「…文字が分かりやすい絵本を頼んだのに、これ色本じゃねえか。あのメイドめ…会うたびにクァンバァーラ言ったろ」
まぁ、少しづつ仲良くなれてるなと感じた神原は大人しく色本を読みだす…が文字が分からない為再び絵本を頼みに行く。
またひと悶着起こりそうな気配を感じさせながら今日も一日平和に終わる
誤字脱字があればご指摘してくださればありがたいです(絶対ある)
最後の段落を少し改行致しました