case1
精製水と言うのをご存じだろうか。
よく実験などでつかうあれである。
混じりけのない純粋なH2oのみで作られた水はどんな味がするのだろうか。
人によって味が変わるのか、はたまたとても形容できない味なのか
飲んだ者は皆一様にこう言うだろう。
「まずい」
そう、精製水はまずい。上手くもなくただまずい、一度飲んだら次はないぐらいまずい。
やはり混じりけの無いものよりも多少は混ざってた方がいい事が世の中多いのである。
「精製水で入れたコーヒーうますぎ死ねる」
実験室の端のほうでコーヒーを入れていた男性が一人しかいないなか満足げに呟く。
「やはりここは居心地のいい住み処やなぁ」
などとエセ関西弁のようなイントネーションで言う彼の左胸のネームプレートには「神原」と書いてあった。
他の学生からこの実験室のヌシと呼ばれる彼は実験室の責任者がゼミの担任でもあることから、なかば入り浸り宿直室も隣接しているため、そろそろ住もうかとも考え始めていた。
シャワーは部活の物を使えばいいし、着替えを持ち込めば使える。
「やばい、考えたらここ最高やんか」
などと自分の考えに酔いつつコーヒーを啜る。
「さて、ほいじゃ知識でもつめますか」
とおもむろにハードカバーの本を取り出す。
背表紙にはクトゥルフ百科とかかれていた。
「やはり日本が誇るクールJAPANの絵を使えば買うやつはかなり増えるだろうに……」
などと挿し絵を見ては日本が誇るクールJAPANの文化はすごいと再確認しつつ、何故海外から日本が狂ってると言われているか少しわかった気がした。
「あきた、てか挿し絵きもい」
あんまりな理由をぼやきつつ、読んでいた本から顔をあげ、机におく。本当ならそこらに放り投げたいが、放り投げたら御財布の中身が光の速さで消えていく事になる。
最近は1瓶ウン十万もするものもあるため余計慎重にならざるをえない。
「あー、異世界いきてぇ」
恐らく世の大半の人が一度は考える願望をつぶやきつつ、机にぐでーっとなる。
「もうあれだから、特殊能力とかチート武器とかいらないからたのむ。」
「あ、でもあらゆるものを合成する方法かいてある本はほしい。」
「まぁそんなうまくいかねぇよなぁ」
ため息をつきつつ辛い現実と向き合うかと考えたその瞬間、机の上神原の目先に謎の試験管が現れた。
「ッ!」
顔を白衣で防御し、椅子を蹴倒しつつその場から飛び退く。
さらに安全眼鏡をかけ気休めながら目を保護する。
しばらく様子を確認するがこれといって何もない、だがしかし… 。
それは浮いていたのだ。見た目は普通の試験管にコルク栓をした銅イオンのような鮮やかな青色であった。
「見た目は銅イオンの入った空中に浮く試験管…か」
「珍しいでしょ」
「ああ、実に珍しい。重力系の魔法か?」
「ううん、違うよ。あれはそういう性質なの」
「そういうものか。ならばしょうがないな」
「で?驚かないの?」
そこまで会話をしようやく相手の方をむく神原。
そこには鮮やかな青い髪を腰まで伸ばし金色の瞳をした美少女がいた。
「どっから現れたかわからない奴ってのはだいたい神かそれに準ずる者って相場がきまってるんだよ」
「そういうものなのね」
「で?異世界へのご招待って所か?」
「うん、さっき聞いた願いなら聞けるしね」
「追加で要望は可能か?」
「ものによるわね」
首をかしげつつ続きを促す。
鮮やかな青い髪がまるで水のように垂れ下がる。
「鑑定できる能力だけあれば十分だ。可能か?」
「それぐらいなら大丈夫」
微笑みつつ可能だと教えられ安堵する神原。
それはまさに最強の能力だと考えているからである。
「他には何かある?」
「その世界は俺が思っている通りの世界か?」
「ん。だいたいはあってるけど、もう少しだけ安全なぐらい」
今のは神原がこの美少女の能力の確認のためにした物だが、どうやら相手の頭の中は見えるようである。
「こっちでの貴方の存在はどうする?」
「任せる。だが記憶には残っておきたい」
「わかった」
「さて、後なにかやることは?」
「ない、後から出てきたら伝える」
「あいよ。ほいじゃいきますかね」
「ん、あそこから行ける」
と指差された場所には出入口のドアだった。
やけに人間に優しいなと苦笑しつつ美少女の方を向き名を訪ねる。
「アイリス、私の名前はアイリス」
「ありがとう。じゃあまたな、アイリス」
アイリスがこくりとうなずくのを見届けてからその扉を開く。
そしてニヤリと笑いながら異世界へと赴く。
「さぁ、楽しもうか」
そう言ってくぐり抜けたドアの先には……
「もうむり死にたい」
部屋の隅で体育座りをし壁に向かいすすり泣く神原の背中はまるで叱られた犬のような空気を醸し出していた
「だって扉抜けたら普通異世界やん。なんで庭園なんよ」
などと涙目になりながら弁明している。
傍らにはアイリスが何言ってんだこいつと言わんばかりのジト目で神原をみていた。
「なにがさぁ楽しもうかだよ」
中二病丸出しな発言は黒歴史となり後に発言者を蝕む呪いとなる
「とりあえず早く立って草がいい加減めんどく下がってる」
「…それはオヤジギャグかなにかか?」
「狙ってはいない」
「そうか」
「うん」
アイリスの偶然発生したオヤジギャグで空気がなんともいたたまれなくなってしまった。
「とりあえずここは庭園でいいのか?」
「そうだよ。私の自慢の庭園」
「なにがある?」
「のぞむものが」
どうやらここには神の庭園のようだ。それに今の発言から恐らくないものがないのだろう、仮になくても恐らくそのうち生えてくる事を今の会話から神原は読み取った。
「なんちゅう庭園なんだよ」
「頑張った」
と決してでかいとは言われないまでもなかなかの大きさを誇る胸をはり、どうだえっへんとばかりにドヤるアイリス。
「どう見ても竜の巣の中身です。ほんとうにありがとうございます」
張り巡らされた水路、比較的大きな水路は片側二車線道路のような大きさで深さもかなりある。中には水中でのみ自生する植物や魚などがいる。細い水路でも幅2、3メートルほどあり深さも4,5メートルはあるだろう。緊急時にはここに飛び込み水路を流された方が移動は早いと考えるほど流れは早い。
「ここの水は飲めるのか?」
「飲んだら体の調子がよくなるよ」
「そりゃ水中に生えてる植物のおかげか?」
「そう。彼らは水中に自生しポーションのような作用を水に対してするんだ。後この水は美味しい」
まじかよこの水路の水ポーションかよと神原は戦慄していた。
「この水路はどこに通じてるんだ?」
「貴方の部屋」
「へ?」
「だから貴方の部屋」
まるで訳がわからないという神原にアイリスは説明する
ざっくりまとめるとこうだ
・街は安全でも街の外はやばい、野宿なんかしたらそっこう死ぬ
・貴族はまともな奴はいるけどボンボンは想像通り
・旅に出たら身を守る術がないと2日といきられない
・薬は街に溢れているけど効力はそんなにない
とまぁ想像通りっちゃあ想像通りの世界である。
「ほいで?ここでしばらく練習していけってことか?」
「チュートリアルは大事」
などとサムズアップで答えてくる駄女神様、いろいろと残念である。
「今この水路の中に入ってもいいのか?」
「全裸で?」
「ちゃうわ」
神原の気の抜けたツッコミと共に指輪が渡される
「なんだプロポーズは男からだろ」
「ん?今プロポーズってゆった?ゆったよな?」
その言葉と共に邪悪な笑み(笑)を浮かべつつもうひとつ指輪をだす
「…まじかよ」
「あくしろよほら」
「わかったわかったから」
「あくしろよ」
「絶対幸せにするとは言わない必ず守るとも言わないだけどなにがあっても側にいる」
まっすぐにアイリスを見ながらそう言葉を紡ぐ
「…」
「…」
「…あの」
「…」
「…いうのめっちゃはずいんですけど」
「…言われた方も恥ずかしいわ」
などとなんとも気まずい空気になる。
「ほ、ほら」
「ん?」
目の前に出される左手。
「はやくしなさいよ」
「ああそういうことか」
左手に指輪をはめていく。あえて薬指にはめるという意趣返しである
「さて、部屋にいきますか」
「そ、そうね 」
水路は使わず普通に歩いていく。
お互い無言で気まずい空気になっている
歩くこと30分ほどでそれは見えてきた
「普通にログハウスやんけ」
「ちょうど伐採してたからね。しょうがないね」
なんというかログハウスといえばと聞かれ想像したものがそのまま出てきた感じだ
丘の上に建つ太い丸太による壁と屋根、恐らく三階建てであろう大きさ
内部は一階に生活に必要な設備、二階は寝室などのフロアになり、三階は特殊な植物の栽培所兼物置となっていた。
なお一階から降りると調合に使うような釜や棚がならんでいる
このフロアには出口がありそこから出入することも可能である
「広すぎじゃね?」
「可能な限り小さくした」
「まぁいいか」
「細かいことは気にしちゃ駄目だよ」
他愛のない会話をしつつログハウスの中を確認していく
「とりあえず今日は飯くって寝るか」
「うん」
地下にある食料庫から今晩の材料をとっていく。
どうやら今日はカレーのようだが、どうみてもやばい色のニンジンだとか七色の玉ねぎだとかなんか柔らかいじゃがいもだとかどうみても鶏ですほんとうに(ryを使っても果たしてカレーと呼べるのだろうか…
「カレーだ」
「普通においしいじゃん」
「あんな材料でもカレーになるんだな」
などと戦慄していたのはまた別の話