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高い音が響き渡った。
3度続けて破裂音が鳴り、周囲の人から悲鳴が上がった。
コウヤとバジルを中心とするように、人々の姿が散り、人影が見えなくなる。
「……これは想定してなかったぜ」
コウヤは、状況を把握する前に硬直し、自分の顔に、体にかかった飛沫が何であるか、その情報が脳へ伝わる。それでも感情がそれを否定した。
バジルの体から、赤い液体が滴り落ちている。
さっき説明を受けたばかりの武器が、数メートル離れた場所に立つ者の手に握られており、何かが燃えたような、濃い香りが流れて来る。
「誰かと思えば烏か」
「おまえがアードの傍から離れるとは、珍しいな」
あざ笑う声が聞こえる。
その存在から一族だとわかる3人の敵は、みんなバジルを知っているらしく、バジルの負傷を楽しんでいるように見えた。
「……うるせえ、黙ってろよ」
バジルの苦痛の息遣いが聞こえる。
胸を押さえたバジルの指先から、赤い液体がこぼれて行く。
それから太もも、肩。3発の音は、全てバジルの体に命中していた。
「わりぃ、コウヤ。守ってやれねえ」
コウヤを振り返ったバジルは、苦痛に歪んだ表情で笑った。
バジルの体を支えようと手を伸ばせば、バジルの手がそれを拒否し、行き場のない手を宙に浮かせ、躊躇う。
「せっかくだからさ、これ、飲めよ」
赤く濡れたバジルの手がコウヤを捕え、抗う間もなく、仰向けにされ、液体を口の中へ流し込まれた。
ぬるいものが喉を通り、奥へと落ちて行く。
「や、やめて、バジル」
懇願するようにバジルの手を掴んでも、バジルはやりたいだけコウヤに血を飲ませると、涙を流し、震え、口元を真っ赤にしたまま、バジルの方に体を傾いだ。
受け止めたバジルだったが、胸に空いた穴から噴き出した血は止まっておらず、コウヤが倒れたのか、バジルが倒れたのか……お互いがお互いを支え合う形となり、バジルは皮肉めいた笑みを漏らした。
「知ってるだろ。俺のここは空っぽだぜ。傷が癒えるまで時間が掛かるが、死にはしねえ。おまえ、しっかり自分で立て。そんで早く俺たちのところへ戻って来るんだ。できるだろ?」
苦しそうなバジルの声が、荒い息と共に吐き出され、咳をすると、唇から血が流れた。
腕を掴まれ、しっかり立てと促されたコウヤは、バジルが羽根を出し、敵を睨みつけながら、悔しげに表情を歪め、飛び去って行くのを見守った。
感情とは裏腹に、バジルからもらった血が体の中を駆け巡り、ドクンと心臓が波打ち、覚醒するように思考が、体力が、回復して行くのがわかった。
気持ちだけが遠退く。
しかし、目の前に立つ者が何であるのか、感覚が研ぎ澄まされた影響で、わかってしまった。
バジルが抵抗もできず、避けることもできなかった。
想定もできず、一瞬の判断を鈍らせた相手。
バラム、セバル、ストラ。
各種族の当主が、人の住む場所、それもアード管轄区にいる。
アード当主は、当主城を拠点とし、バジルが言うことを信じれば、他所へはあまり訪れていない。それは他種族から身を守る為だとも聞いたことがあった。
コウヤは、あり得ない相手の登場に、混乱の渦に飲み込まれていた。
当主たちの視線は、面白おかしそうな表情でコウヤを観察している。
誰がどの種族の当主なのかわからないが、中の一人がコウヤに視線を据えたまま、コウヤに向かい、歩いて来る。
コウヤは、気圧されるように後ろに下がった。
しかし、視界に入る情報よりも、当主の動きが早く、惑わされていると知った時にはすでに遅く、コウヤの腹に銃が突きつけられていた。
「眠れ」
耳元で囁かれ、腹に食い込んだ銃から、くぐもった音が聞こえた。
そう思った瞬間、腹に熱が走った。
流れ出る血を両手で覆い、痛みよりも、失血して行く感覚に耐えられず、蹲った。
宙に浮く感覚を得る。
混乱するまま当主に抱きかかえられたコウヤは、ゆらゆらと揺れる地面を見ていた。
視界が白く弾け飛び、次第に黒く沈んで行くのを、自分ではないという感覚の中で遠くへ引き寄せられて行った。




