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君と暮らす退屈な日々  作者: サクラギ
≪第二章≫
33/53

>2

 高い音が響き渡った。

 3度続けて破裂音が鳴り、周囲の人から悲鳴が上がった。

 コウヤとバジルを中心とするように、人々の姿が散り、人影が見えなくなる。


「……これは想定してなかったぜ」


 コウヤは、状況を把握する前に硬直し、自分の顔に、体にかかった飛沫が何であるか、その情報が脳へ伝わる。それでも感情がそれを否定した。


 バジルの体から、赤い液体が滴り落ちている。


 さっき説明を受けたばかりの武器が、数メートル離れた場所に立つ者の手に握られており、何かが燃えたような、濃い香りが流れて来る。


「誰かと思えば烏か」


「おまえがアードの傍から離れるとは、珍しいな」


 あざ笑う声が聞こえる。

 その存在から一族だとわかる3人の敵は、みんなバジルを知っているらしく、バジルの負傷を楽しんでいるように見えた。


「……うるせえ、黙ってろよ」


 バジルの苦痛の息遣いが聞こえる。

 胸を押さえたバジルの指先から、赤い液体がこぼれて行く。

 それから太もも、肩。3発の音は、全てバジルの体に命中していた。


「わりぃ、コウヤ。守ってやれねえ」


 コウヤを振り返ったバジルは、苦痛に歪んだ表情で笑った。

 バジルの体を支えようと手を伸ばせば、バジルの手がそれを拒否し、行き場のない手を宙に浮かせ、躊躇う。


「せっかくだからさ、これ、飲めよ」


 赤く濡れたバジルの手がコウヤを捕え、抗う間もなく、仰向けにされ、液体を口の中へ流し込まれた。

 ぬるいものが喉を通り、奥へと落ちて行く。


「や、やめて、バジル」


 懇願するようにバジルの手を掴んでも、バジルはやりたいだけコウヤに血を飲ませると、涙を流し、震え、口元を真っ赤にしたまま、バジルの方に体を傾いだ。


 受け止めたバジルだったが、胸に空いた穴から噴き出した血は止まっておらず、コウヤが倒れたのか、バジルが倒れたのか……お互いがお互いを支え合う形となり、バジルは皮肉めいた笑みを漏らした。


「知ってるだろ。俺のここは空っぽだぜ。傷が癒えるまで時間が掛かるが、死にはしねえ。おまえ、しっかり自分で立て。そんで早く俺たちのところへ戻って来るんだ。できるだろ?」


 苦しそうなバジルの声が、荒い息と共に吐き出され、咳をすると、唇から血が流れた。

 腕を掴まれ、しっかり立てと促されたコウヤは、バジルが羽根を出し、敵を睨みつけながら、悔しげに表情を歪め、飛び去って行くのを見守った。


 感情とは裏腹に、バジルからもらった血が体の中を駆け巡り、ドクンと心臓が波打ち、覚醒するように思考が、体力が、回復して行くのがわかった。


 気持ちだけが遠退く。

 しかし、目の前に立つ者が何であるのか、感覚が研ぎ澄まされた影響で、わかってしまった。


 バジルが抵抗もできず、避けることもできなかった。

 想定もできず、一瞬の判断を鈍らせた相手。


 バラム、セバル、ストラ。

 各種族の当主が、人の住む場所、それもアード管轄区にいる。


 アード当主は、当主城を拠点とし、バジルが言うことを信じれば、他所へはあまり訪れていない。それは他種族から身を守る為だとも聞いたことがあった。


 コウヤは、あり得ない相手の登場に、混乱の渦に飲み込まれていた。


 当主たちの視線は、面白おかしそうな表情でコウヤを観察している。

 誰がどの種族の当主なのかわからないが、中の一人がコウヤに視線を据えたまま、コウヤに向かい、歩いて来る。


 コウヤは、気圧されるように後ろに下がった。

 しかし、視界に入る情報よりも、当主の動きが早く、惑わされていると知った時にはすでに遅く、コウヤの腹に銃が突きつけられていた。


「眠れ」


 耳元で囁かれ、腹に食い込んだ銃から、くぐもった音が聞こえた。

 そう思った瞬間、腹に熱が走った。


 流れ出る血を両手で覆い、痛みよりも、失血して行く感覚に耐えられず、蹲った。

 宙に浮く感覚を得る。


 混乱するまま当主に抱きかかえられたコウヤは、ゆらゆらと揺れる地面を見ていた。


 視界が白く弾け飛び、次第に黒く沈んで行くのを、自分ではないという感覚の中で遠くへ引き寄せられて行った。



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