>2
高いビルの最上階に位置する部屋のテラスへ出て眼下を眺めていると、コウヤの胸の高さほどある手すりの上に、トンッ、と、人が立った。
コウヤは、またか……と思いながらその人物を見上げると、飽きれた表情をしたバジルが手すりからテラスの床へ降り立った。
「で? どうする?」
誰かに見られない為か、床に腰を下ろし、手すりに背を預けたバジルは、少し怒っているようにも思えた。
コウヤは、男2人に連れられ、黒い箱型の乗り物で、このビルに連れて来られ、上下に動く箱で最上階へ運ばれて、この部屋の中に閉じ込められた。
部屋は、コウヤの歩幅で30歩ほどの四角い形をしており、床も壁も天井も、同じ素材の灰色をしていて、丸く太い管が天井を張っている。殺風景と色味のない部屋は、大陸にある部屋を思い起こさせ、ほんの少しだけ緊張を解くことができた。
「……しばらくは様子を見る」
コウヤはバジルを見つめながら、薄らと笑みを浮かべた。
「人は俺を甘く見ていると思わない? こんなところに入れて、閉じ込めたとでも思っているのかな? バジルがいなくたって逃げられると思わない?」
コウヤを斜に見上げていたバジルは、辺りを見回し、コウヤの意見に賛成だったのか、口端を上げて笑みをつくった。
「せっかく人の地に来たんだから、人の意見を聞いてみようと思う」
「そうか、そりゃ良いが、おまえ、逃げる体力も気力もねえんじゃねえの? 自分でもわかんねえくらい、体が衰弱してるぜ?」
立ち上がったバジルは、自身の腕を牙で噛みきり、盛り上がり、滴って行く血をコウヤの方へ差し出した。
「血は嫌いだって知ってるだろ?」
そう言いながらも、新鮮な血の匂いに喉が鳴る。
ふらふらと近寄ってしまったのは、感情とは別に、体が血を欲しがってしまった為だ。
「俺のじゃ大して足しにもなんねえだろうけど、いざという時、おまえが死んでちゃ俺のいる意味がねえ」
滴り落ちる血を舌で掬い上げ、コクンと喉を通せば、頭の中でキンと音が鳴った。
何口か啜り、喉を通し、その甘い芳醇さに涙が浮かんだ。
絶望が這い上がる。
血を嫌い、肉を避け、一族であることから目を反らして来た日々が、何の意味も持たなかったことを知る。
コウヤがバジルの腕から唇を離し、朱く染まった唇を腕で拭っている間に、バジルの腕の傷はもう塞がっていた。
「……こんなの、知りたくなかった」
強い眼差しでバジルを睨み、恨み言を口にしたが、バジルは興味もなさげに視線を外し、羽根を出して手すりに飛び移ると、羽根を広げ、飛んで行く。
バジルはいつも身勝手だ。
コウヤが望むものも、望まないものも知りながら、何もかもを思い通りにして行く。
それが結果、間違いのないものだと知る瞬間が訪れることも、コウヤは理解していた。
それでもそれが悔しくもあり、対等でないことを思い出させ、ひとりであることを強く知らしめられた。
初めからひとりである筈なのに。




