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君と暮らす退屈な日々  作者: サクラギ
≪第一章≫
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>2

 コウヤは、当主の話に聞き入りながら、想いを募らせ、堪え続けていた。


 アード当主が、他の当主を統率できるのなら、もう一度、全ての一族を眠らせてくれれば良いと、簡単に全てを終わらせられることを知り、そうして欲しいという願いが口を突いて出てしまいそうだった。


 アード当主は、人と共に暮らしていたのだ。人が間違いを犯さなければ、こんな状況にはならず、今もなお、特殊な能力を隠しながら、人として暮らしていた筈だ。


 コウヤは大陸の過去を知らない。生まれた時にはすでに一族が大陸を支配していた。だけど島がベレスに焼き尽くされる前の生活が、過去の大陸の姿のように思えた。


 自然と共に暮らし、大地の恵みを頂く。

 太陽と共に起き、太陽の恵みを頭上に頂きながら生活し、沈む頃に家に帰る。帰れば家族がそこにいて、月明かりに照らされながら、星空を見上げ、眠りにつく。


 懐かしい幼き頃の生活を思い出し、同時に、恐怖に震え続けている今に失望する。

 何も生み出さず、変化のない毎日が、時を無駄に使っているような気になり、自身の存在理由をも見失う。


 考え込んでいるコウヤを見やった当主は、憐みの視線を投げかけている。

 瓶2本分の酒を飲み、しかし、何の変化も見せない当主は、ひと時の休息を得ると、ため息ひとつを落とし、また話始めた。







「すげーな、コレ。俺ら、好きにしちゃって良いってこと?」


 最初に目覚めたのは、砂漠の大地の地中深くに眠らせた、3人の統率者たちだった。


 爆撃は、大陸を4つに割る形で落ちた。

 そうなるように仕組んだのは、ウェンだったが、決してウェンが落とさせた訳ではない。どうせ大地を引き裂いてしまう威力の爆撃ならば、大地を4つに割ってくれたら良いという、今後の展開を見越しての所業だった。


 爆撃が落ちたばかりの大地の裂け目から、地中に埋め、目を背けられていた者たちが這い出して来る。

 熱風と砂塵が渦巻く大地で、人体に影響を及ぼす毒を含んだ大気に包まれ、それこそが我らの望んだ生きる場所だとするように、爛々と瞳を輝かせ、方々へと散って行く。


 ウェンは人に警告を与えていた。

 争う人々の間に立ち、大地を穢せばよからぬ者が目覚めると忠告し、人々に説いて回っても、その意思は届かず、届くどころか馬鹿にされ、カルト宗教だと遠巻きにされるようになり、この戦争に警鐘を鳴らし続けた者たちを巻き込み、迫害され続けた。結果、何一つ止められず、最悪の場面を迎えた。


 ウェンは、己の眠らせた者たちの目覚めを促すつもりも、彼らの生きる場所を作りたかった訳でもない。結果論として、彼らの生きる場所を提供する形になっただけだ。


 それを統率者たちは手放しで喜ぶ。


「身勝手に眠らされた時は、おまえに対しての怒りばっかだっだけど、こういうことかって納得したぜ」


 最北の領区を手にしたバラムが嬉々として言う。


「なぁ、復讐しても良いんだよな? 身勝手な研究者共はもういねえか。だったらその孫だかひ孫だか知らねえけど、そいつらにでも復讐してやろうかな」


 北から2番目の領区を手に入れたセバルが暗い表情で笑う。


「どうせあれだろ? 国の権力者たちは逃げてんだろ? 俺を死刑にしようとした連中も生きてるかなぁ。なぁ、血を啜って、肉を食っても良いんだよな? あぁ、うまそうなのは、やっぱ若い女かもしれねえなぁ」


 北から3番目の領区を手にしたストラが、手の甲で涎を拭く。


 彼らの視線は大陸にない。

 馳せた視線の先からは、甘い血の香りが、生命の息吹が伝わって来る。


「好きにしろ」


 ウェンには、統率者たちを縛る力がある。

 しかし、彼らの行動を止めることはしなかった。


 人、自らが望んだ世界だ。

 人、自らが生み出した者たちだ。


 人に対する同情はない。

 どのみち大陸は毒に汚染されている。人の生きられる世界ではない。

 元の世界に戻る為には、あと何年、何十年、もしかしたら何百年もかかるだろう。


 人は脅威に晒され、恐怖を味わい、震えて生きれば良い。

 そうした歴史が人の記憶に強烈な印象を持って残されたら、きっと次の世界の抑止力になる。


 ウェンは、血肉を求め、大地を離れて行く者たちを見守りながら、別の地で眠らせたベレスのことを考えていた。


 彼の傍に、望んだものが寄り添っていたら良い。

 目覚めが彼を優しく迎えてくれていたら良いと、ウェンは願わずにいられなかった。


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