龍の咆哮
ヤツはつんざくような
鳴き声と共に大きな口を
天に向かって開き、炎を吐き出した。
そいつの鱗や翼は
何色か表し難い色だった。
緑のような気もするが、
炎の明かりが反射して
もっと別の色にも見える。
見せつけるような
鋭い爪がぎらりと光った。
あれに掴まれたらきっと終わりだ。
ヤツは引き裂かれたカーテンみたいな
でかい翼をばさりとはためかせ、
こちらへ迫ってきた。
魔法を使おうと思ったそのとき、
ぐいとローブのフードを引っ張られた。
「ばか、死にたいのかよ!」
アシュメルだった。
「でも、あれ…っ」
おれがアシュメルの手を
振り払おうとすると、
ゴォォォオッと突風が吹き荒れ、
空のあいつは炎を吐き出した。
おれは、なぎ倒された木をみた。
グラン先生が金切り声で避難を命じている。
「いくぞ!」
おれはアシュメルにフードを
引っ張られながら北の棟の
裏口にまわった。
まだみみざわりな鳴き声と
爆発音が聞こえてきた。
「ナルミは確かに強い魔法使いだけど、
あいつに一人で立ち向かうのは無理だ!」
「わかってるよ。…でも、
あいつほっといたら…」
アシュメルをちらりとみやると
彼はおれの想像以上に強い目をしていた。
アシュメルはときどきこういう目をする。
こういうときのこいつは
なにをいっても聞かないんだ。
「オレも一緒にいくから。
でも、それは今日じゃない。」
「ああ、そうかもね」
しばらく北の棟の裏に身を潜めていると
あいつの鳴き声はだんだん
遠ざかって行った。
おれたちは北の棟から校舎に入った。
古いれんが作りのこの校舎が、
ふと頼りなく見えてしまった。