喧嘩
「攫われちゃったの…黒い影に!あたし…っ。どうしたらいいのか…わからな…っ。ああ、あああ!!ユカ…ユカぁああああああ」
メルはその場に崩れ落ちてわんわん泣き出してしまった。パニックになってしまっていて、言葉をまともに繋げられないのだ。
「誰か来たのか」
ルビィが目を覚ましたみたいだ。さっきまで眠っていたとは思えないくらいてきぱきした調子で見張り役のミュゼンに事情をきいた。ルファは泣きじゃくるメルを慰めるので手いっぱいだった。
「メルが来た。一緒にいた仲間を食われた…みたい。すごくこわがってる」
「そうか、ありがとう。」ルビィはすぐ、うずくまる人影に向き直った。「メル…」
半ばルファをおしのけるようにして、メルの目を覗き込んできいた。
「どこで、だれがやられたんだ」
「おい…」
ルファが止めようとする手を、ルビィは制した。メルはあいかわらずしゃくりあげるばかりで、答えられる状態じゃない。
その泣き声を聞いてか、みんなが起き出した。隣で眠っていたレビィも寝ぼけ眼をこすりながらルゥに尋ねた。
「どうかしたの?」
「メルが来たんだ」
「メルだけ?ユカも一緒に行ったはずよ」
「それが、ユカはどうやら…やられちゃったみたいなんだ」
「えっ?」
レビィのぱちりと大きな目が見開かれた。完全に目を覚ましたようだ。
「おい、メル。おれたちは仲間だ、安心して話してくれ。何があったんだ。話してくれなきゃ困るんだ。他のみんなの命がかかって…」
「おい、それは今聞く話じゃないだろ!」
ルファが苛立って声を荒げるのがきこえた。その場にいる全員がびくりとした。
「…なに、あのひとたち。泣いてる女の子の前で喧嘩する気なの?お兄ちゃんってほんとデリカシーないんだから…!」
レビィは隣でそう呟くと、3人の間に割って入った。
「ふたりともやめて。お兄ちゃん、そんなに鬼みたいに詰め寄らなくてもいいでしょ?どうして人の気持ちが考えられないの!…メル、こっちに来て。喉乾いたでしょ?りんごがあるの。みんなもいるよ。もう、だいじょうぶ」
「うぅっ…ユカ…うっ」
レビィに背中をさすられながら光のもとへ手を引かれていくメルは、足を引きずっていて長い髪が乱れていてぼろぼろだった。レビィに叱られた2人はちょっぴりしおらしくなって黙り込んでいた。
「何かあったの?僕の時計だと…まだ、2時半で、朝までにはまだ時間があるけど…。」
闇の向こうで騒ぎを知らないデュークがのんびりというのが聞こえた。
「ここには朝も夜も昼もねえよ」
いらだったままルファが毒づく。デュークは苦笑した。
「確かにね。でも僕とルビィはまだ1時間しか寝てないんだ…って、あれ?ルビィはどこに行ったの?」
「ここにいる」
ルビィの声もおそろしくぶっきらぼうだった。
「まだ見張りしてたの?少し寝ないと体がもたないよ。君はこの場を取り仕切るリーダーなんだから、頼むから倒れないでいてくれよな…」
デュークがそう言いながら寝返りをうつ音が聞こえた。
「おい、デューク。メルが来たんだ」ルビィは立ち上がってデュークのそばに戻っていった。
「ああ、全部聞いていたよ」
「なんだよ、じゃあ早く声かけろよな。…聞けることは早めに聞きたい。わかったらできるだけ早く行動を起こそう。じゃないと…」
「今の彼女に無理をさせちゃだめだ。ルビィ、みんながみんな君みたいに強い心を持っているわけじゃないんだよ。休息が必要だ。…君は真面目なんだ…。いつも、いつだって。ほんとうに、過度なほどね…」
「……」
「じゃあ、おやすみ。ルファ、ミュゼン、ありがとな。あとちょっと頑張ってくれ」
「おう」
レビィはまだメルのそばに寄り添っていた。
彼女は優しいんだ。ボクもああしてもらった。次はメルの番だ。
ルゥはそう思ってくるっと二人に背を向け、再び眠りについた。短い夢がくるくる入れ替わる浅い眠りだった。




