作戦会議
「よく生きていたな。仲間と再会できたことを喜ぼう。どんな状況でも、少しでもいいことを考えるんだ。最後に勝つのは、心が強い奴だ。生きて出よう、みんなで。きっとみんなの力を合わせれば逃げられる。だって俺たちは、ラシュテルゲンの魔法使いだから」
ルゥは上体を起こした。
全身雷がなるように痛んだが、ルビィの顔を見て話を聞きたいと思ったのだ。
そばにいたレビィが肩を支えてくれた。
「つらかったら、寄りかかっていいからね」
彼女はそう囁いた。
「……じゃあ、状況を整理しよう」
デュークが例の落ち着き払った声で切り出した。黒いまっすぐの髪が、つやつやと光に反射している。初めて彼の顔を見たけれど、頭が良さそうだった。いわゆる、クラスの秀才といった顔立ちだ。
「時はアウロラ歴423年。5月11日。まず、ここまでで、記憶が違う人はいるかい」
全員、無言で首を横に振った。
「オーケー。記憶の操作はされていないみたいだね。じゃあ、続けるよ。
天気、快晴。午後2時半。サバイバル魔法の実習のため、ラシュテルゲンから離れたところにある森にいた。そこでドラゴンに遭遇。黒魔法の息を吹きかけられるなどして気絶。そのまま連れ去られ、ここに閉じ込められた。」
全員黙って頷く。
「ここからは予測。
おそらく、相手は大魔女。伝説では封印されたようだけど、子孫は残っている可能性が高いと思う。魔法使いのこどもを襲うという点も伝説と一致しているし…。
それに、敏感な人は感じていると思うが、ここはただの洞窟じゃない。黒魔法がしみついてる。だから大魔女の住処、もしくはその近所だろうと考えられる。」
そうか、異様に身体が疲労するのは、黒魔法のせいだったんだな…。
「出口は、今のところ見つかってない。だけど、入れたってことは出れるってことだ。諦めないで出口を探そう。」
少し腰のあたりがつらくなって、ごめんと言いながらゆっくりとレビィに寄りかかった。レビィは無言でにこりと笑い、そっと傷だらけのルゥの手を撫でた。
「…そして、ここからは作戦。」
デュークがてきぱきと続ける。
「まず食料。持っている人は今ここに全部出して欲しい。みんなで分け合って食べよう」
みんなは自分のポケットをごそごそやった。でも、出てくるものなど限られていた。ビスケット、キャンディ、チョコレートなど。
しかし、1人格の違うやつがいた。
次から次へとモノが出てくる。6つほど積み上がった缶詰、5個入りのパンの袋が3つ。りんごがふたつ…などなど。
……誰だろう。
「すごいな…」
さすがのデュークも驚きを隠せないらしかった。
「ポケットに四次元魔法をかけてあるんだ…。まさかこんなときに役立つとは思わなかったよ」
高めの男の子の声だ。明かりが当たらないところにいて顔が見えないが、シルエットで判断する限り、身体が相当大きい。
「まるで歩く食料庫だな。すごいよ、カドロー。感謝する。見直した。無駄にはしない。みんなで大切に食べよう」
デュークの声は明るかった。なんとなく、みんなの中にほっとした空気が広がっているのがわかる。
「うん。ぼくも、食べ過ぎないように気をつけるよ」
「よかった…。食料について1番心配していたが、難なくクリアだな。あとは気力の体力だ。」
ルビィの声もすこし柔らかくなったようだ。
デュークは続ける。
「洞窟の中じゃ暗くてわからないんだけど、どうやら今は…午後11時頃だ。僕の時計だと。今日はゆっくり休もう。二人一組の二時間交代で番をすることにした。まずは、僕とルビィでやる。次はルファとミュゼンだ」
「りょーかい」
「じゃあみんな、おやすみ」
みんなは口ぐちにおやすみと言い合って眠った。
「…ルゥ、眠れる?」
「うん。でも、こうしていて。レビィはあったかいから、くっついてるとあんしんする」
やや、間があって。
「…わかった」
レビィが小さく呟いて、ルゥの手にそっと手を重ねた。