仲間との再会
「おにいちゃん」
真っ先に飛んできたのは、ちいさな女の子だった。「おにいちゃん」ってことは、これがルビィの妹のレビィだな。
「ああ、ルゥ…無事だったのね」
彼女の声がかすかに震えているのは怖いからか、安心したからか。
「ん…ありがとう、だいじょぶだよ」
ルゥの衰弱し切った声がこぼれ出る。
レビィはあわてておれを降ろして寝かせるようにルビィに言った。
「そうだな。
ルゥ、よくがんばった。とりあえず、ゆっくりやすめよ。…ちょっといいか。ルゥの場所をあけてやってくれ」
ルビィが丁寧にルゥを地面に下ろした。さっき気を失っていた場所とは違って、地面は乾いていた。
「ルゥ」
「だいじょぶ?」
「生きてて、よかった」
明かりのまわりにあつまった人たちが
心配そうに顔を覗き込んでくる。
「怪我は?」
笑おうと思うのに、頬がひきつるだけだ。
しんぱいしないで。
みんながぶじでよかった。
すこし、おなかがいたいけど
たぶんたいしたことないよ…
こわかったね、みんな。
でも、ちゃんとあえてよかった…。
いろいろ言いたいことは思い浮かんで、でもひとつも言えずに、代わりに咳き込んだ。
合流できてよかった。
ルゥと同じくらいおれもそう思った。
心からそう思った。
そういえば、この光の魔法は誰がやったんだろう。すごく温かくて、安心する光だ。
「レビィ、ここにいるのは何人だ?」
ルビィのてきぱきした声が問う。
「17人。さっき、メルとユカが探索にでかけちゃって今いない。でも、それと入れ替わりで、デュークとルファとミュゼンが来たのよ!」
「そうか。デュークはどこにいる?」
「…呼んだ?」
光を取り囲む輪の中から、落ち着き払った男の子の声。
「ああ、よかった、ちゃんとここに来られたんだな…。まってたんだぜ」
ルビィの声が、初めて、揺れた。
デュークと呼ばれた方の声が、ははは、と静かに笑う。
「遅れてごめん。
おれとルファとミュゼンでだいぶ洞窟を歩き回ったんだよ。…わかったことは、この洞窟、”行き止まりがない”」
「行き止まりがない?」
「そう。途中で途切れる道がないんだ。たぶんね。必ず道は繋がっている。絡んだ糸みたいに複雑だけど。
だから、探索するときは注意しないとどこまでも行ってしまうし、何度も同じ場所を通ることもある」
つまり、この洞窟の道は蜘蛛の巣みたいに張り巡らされているということか。
やっかいだな。なんだか、むずかしそう。
”ルゥが”頭の中でぼんやりと思う。
「出口は、あると思うか?」
「うーん…。物理的に考えて、
入れたなら出れなくちゃおかしいよ」
デュークの声には余裕がある。
「そうだよな」
「出口のようなものは一応見つけた。五重ぐらいに、複雑な施錠魔法がかけられてる。ルファが透視魔法で見てくれたが、
外には魔物と思しき影がうろついている。
たぶん大魔女の手先かな」
「なるほど。文字通り、袋小路に閉じ込められたってわけか」
つくづく絶望的だな…。
「杖はみんなとりあげられてる」
「杖なしで魔法が使えるのは?」
「レビィとメルとルファ。ぼくも調子がよければ…。
とりあえず、光はレビィがともしてくれた」
「さすが、おれの妹だ」
デュークの冷静さに安心したのか
ルビィの声にもだいぶ落ち着きが
戻ってきたようだった。
体の痛みはさっきより軽くなった。
起き上がってみようと、腕と腹筋に力を入れると体は古い機械のようにみしみしっといった。
「無理して動かしちゃだめよ」
レビィがあわてて寝かせようとするのを
ルゥの手はやさしく退けた。
レビィの手はあたたかくてやわらかくて、ああなるほど、この子がこの光を灯したのかと思うと納得がいった。
「だいじょぶだよ。ありがとう」
レビィはなんとなく見た感じすばしっこい小動物のような雰囲気の女の子だった。
髪は短く、顔は小さく、肩幅もなく、体は薄くて、腕も細い。目はまるくやわらかく光っていて見つめられるとすこしどきりとする。
「これからどうなるんだろう…」
輪の中で、不安そうな声が上がる。
「大魔女に食べられちゃうのかなあ…」
「怖いこと言うなよ。大丈夫だろ…」
「おなかすいた…」
その場にいる全員が衰弱していた。
ぼんやり、仲間たちの声を聞きながら、視線はずっと洞窟の天井から動かなかった。でこぼこの壁に、影がゆらりゆらりゆれる。
「みんな」
一通りデュークと話し終えたらしく、ルビィがみんなに語りかけた。