洞窟にて。
目を覚ますと、そこは真っ暗な空間だった。…ほんとうに空間だろうか?
最初おれは、自分がほんとうに
目を開けているのかわからなかった。
あたりを見回しても、あかり一つなく、
耳をすましても何も聞こえなかった。
鼻を利かせてみても、
なんの匂いもしなかった。
気温も、寒くも暑くもない、
中途半端な気温だった。
とりあえず、痛烈に五感に
訴えかけてくるものはないということだ。
都合がいいようで不安だった。
自分はほんとうに、
今、生身の人間なのか?
これはもうすでに、
「ルゥの体験」なのか…?
とりあえずおれは上体を起こした。
おれの意思で起こした、というより、
勝手に起き上がった感じだ。
手をついた地面は
しめった岩のようだった。
鍾乳洞のような、
ざらざらした手触りだった。
…ってことは…。
ああ、これはやっぱり、
ルゥの体験の中だ…。
ルゥの目を通して見る暗闇は、
葡萄酒の瓶の底にたまった澱のように
重たく、濃い感じがした。
当然のことながら、
アシュメルの姿はどこにもない。
「ルゥ…。ルゥ!」
後ろから、男の子の声がした。
おれは、はっとして
後方を向いた。(向かされた)。
「ルゥ…よかった、ここにいたのか」
頼りになりそうな、
しっかりした声だった。
年上なのかもしれない。
「ルビィ?」
おれの口から、衰弱しきった
ルゥの声がこぼれだした。
「ボク、どうしてこんなところに…」
立ち上がろうとしたおれの肩を、
ルビィはそっと抑えながら、
覚えてないのか、と言った。
「うん…」
なにか喋ろうとすると、
全身が傷んだ。
特に脇腹が鈍く痛い。
「ラシュテルゲンにドラゴンと黒い鷲が
何羽もきたこともおぼえてない?」
「ああ…そうか…そうだった….」
ぼんやりと思い出してきたらしいルゥは、
暗闇を見つめながら言った。
相変わらず、ただの暗闇だった。
「ボク…その鳥の爪に鷲掴みにされて
ここに来たんだ…」
「そうだ。あれは…あのドラゴンと鷲は、
大魔女の手下だ。」
おれは返事をしなかった。
頭があまりよく動いてない。
ルビィは大きく深呼吸して
言葉を続けた。
「いいか、ルゥ、そんな
ぼんやりしてる場合じゃないんだ。
俺たちはいま、大魔女に捕えられて、
檻の中に閉じ込められてるんだぞ」
大魔女に捕えられている…。
とじこめられている…。
急に寒くなった気がした。
こわい。しにたくない。
これは、ルゥの感情なのか?
「大魔女はボクらをどうするつもり?」
「わからない…。これは予測だけど…
魔力を取られるんじゃないかって
…妹…レビィは言っている」