思念の箱。
「じゃあ、行くよ。
ボクについて来て」
ルゥ、アシュメル、おれの順番で、
その部屋の入り口に入った。
階段になっているみたいだ。
ひやりと冷たい風が、
中でひゅうと音をたてた。
階段を降りていくと突然地
下室のような空間にたどりついた。
けっこう、足音が反響するな…。
「っていうか、なんでお前が
このからくりのことを知っていたんだ?
この中のことも…」
アシュメルが問うと、ルゥは
一瞬迷ったように揺れた。
暗い室内ではルゥの青白い体が
異常にはっきり見えた。
こう見ると、想像以上に
幼い顔をしているんだなあ。
ぱちぱちっとまばたいた大きな目が
すこしゆるむ。
「そりゃ、だって。
ボクが仕掛けたんだもの」
「ひとりでこんなのを?なんのために?」
「そうだよ。ボクしかいなかったんだ。
有る限り全ての魔力を、
これに費やしたんだ…。
今やっとここにいられるだけの魔力しか、
もう残ってない。
それだってもう、いつまで続くか
わかんないけど…。
だから、君たち2人に魔法をかけて、
この部屋を見てほしかったんだ。
どんな歴史書にも乗ってない、
ドラゴンとラシュテルゲンの話だよ」
ルゥにつられて、ついた先は
一つの小さな箱だった。
ルゥの手が、その箱のふたに
そっと触れる。
懐かしむような手つきだ。
「この中に、ボクが見たこと、
聞いたこと、体験したことが、
全て詰まってる。2人はこれから、
思念の中のボクにのりうつって、
ボクが感じたもの全部を
体感することになる」
ルゥの顔がいやに真剣で、
こちらもうかれた冒険気分では
いられなくなった。
隣のアシュメルは、わりとまだ
リラックスしていて、
新食感ってやつだな、あれ、新感触?
いや、新感覚だ!とかいう
自問自答をしてるけど。
「ボクが言ったことは、
なにもしなくても口を
ついてでてくるから、大丈夫。
思ったことは、物語みたいに
聞こえてくるように魔法をかけた。
歴史書として、つくってるからね。
…けっこう、身体にくるかも。
でも、なにがあっても、
集中を絶やさないでね。
逃げようとか思わないで、
目の前のことを受け止めてね」
「あくまで、劇場でちょっと
過激でリアルな物語をみてる感じ
ってことだな」
「そういうこと。だいじょぶだよ、
君たち自身の身体は傷つかないから。
心は…どうかな、わからないけど」
ルゥは曖昧に笑った。
うん、わかるぜ、言いたいことは。
「じゃ、行くよ。ボクが
この鍵を開けたら、始まりだ」
ルゥの細い指が、器用に動いた。
ばちんと、蝶番が外れた。
おれは息を止めて、目を閉じた。
あたたかい何か、液体のようなものが
全身にふりかかり、握りしめた手の感覚も
なくなった。
泡になった、そんな感じだった。




